韓国出身のNight Tempoが和製シティ・ポップを広める意味「自分や他者を規定してしまうのはもったいない」

神戸のレコードショップの店長から言われた「真理」

─好きなものを突き詰める、ディグる楽しさってどこにあると思いますか?

Night Tempo:……これは確か数年前、今はもう無くなってしまった神戸のレコードショップで、そこの店長だったおじさんが言ってたんですけど。「この世の中には二種類の人間しかいない。ディグル人と、ディグらない人」だと(笑)。つまりいつもディグっている人は、必ずとこかに到達する、何かをつかむことができると。それ以外に人……ディグっていない人たちも、それはそれで楽しい人生を送れるかもしれない。ただ、ディグっている人にしか辿り着けない楽しい人生を味わうことは、決して出来ないと。「だからディグッた方がいい」と言われて。

─とてもいい話です。

Night Tempo:だから僕は、今もディグり続けているんですよね。

─ちょっと前にNight Tempoさんは、「シティ・ポップは裕福な時代の幸せがそのまま伝えて来る。世界的に余裕がない今は、技術があってもその時の感情を再現する事は不可能に近い。」と呟いていました。僕は「昭和歌謡」を聴いて育った世代なのですが、Night Tempoさんが手がけたWink、杏里のオフィシャル・リエディットを聴いても、懐かしさとは違う感情が湧いてくるんですよ。昔親しんだ音楽に「新しい命」を吹き込んでもらったような、そんな不思議な感動を覚えるというか。

Night Tempo:そう言ってもらえるととても嬉しいです。別に僕は、オリジナルが作れないからサンプリングをしているわけではなくて(笑)。昨年『Moonrise』というオリジナル・アルバムを作ったのは、「サンプリングネタがなくても曲は作れますよ?」ということを証明したい気持ちもありました。でも、自分のルーツはやっぱり「昭和歌謡」にあるし、サンプリングから離れた音楽はNight Tempoとは言えないんじゃないかなと思うので、これからもサンプリングはやっていきたいですね。



─あと、これは是非聞いてみたかったことなのですが、今は歴史認識や政治的なスタンスをめぐって日韓関係がとても悪化しています。そのことは、Night Tempoさんの活動にも影響はありますか?

Night Tempo:僕はアーティスト、キュレーターとして文化に中立な立場を守りながら活動したいので、そこに歴史的な立場や政治的なスタンスを持ち込むのは良くないと思っています。「韓国を統治した日本が悪い」とか「日本との約束を守らない韓国が悪い」とか、それぞれ言い分はあると思うのですが、文化はそことは切り離して楽しんでほしい。僕自身「昭和歌謡」が好きなのは、80年代のジャパニーズ・カルチャーを愛しているからであって、そこに歴史認識は関係ないんです。

─最初にNight Tempoさんが「活動の拠点はインターネット」と仰っていたのがとても腑に落ちました。

Night Tempo:インターネットさえあればどこへでも一瞬で行ける今の時代に、「韓国人だから」「日本人だから」「アメリカ人だから」と自分や他者を規定してしまうのはもったいなくないですか? 今こそ「We Are The World」の精神を思い出すべきだと思うんですよ(「We Are The World」マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーら大物アーティストが結集し、1985年にリリースしたチャリティー・ソング)。だって、ディズニーの映画を観るときに、「アメリカが嫌いだから観ない」なんて誰も言わないし、そもそもアメリカが好きだからディズニーを観ているわけじゃないですよね? 嫌韓とか反日とか右とか左とか本当に関係ないです。

─デリケートな質問に答えてくださってありがとうございます。では最後に、今後の抱負をお聞かせください。

Night Tempo:「昭和歌謡」の知られざる名曲を、もっともっと紹介していきたいですね。有名な曲以外にも、いい曲がたくさんあって。しかも「フォーク」や「ニューミュージック」と呼ばれる音楽は、DJイベントとかでもよくかかるんですけど、アイドル・ソングはやっぱり「ダサい」っていうイメージがあるみたいで、ほとんどかからないんですよね。他の音楽と比べて、みんなちょっと下に見ているというか……その状況も変えていきたいです。Winkさんや杏里さんのオフィシャル・リミックスをやらせてもらえたのも、そういう活動が認められたからだと思うし、これからもその道を極めていきたいですね。

Night Tempo(ナイト・テンポ)
昭和歌謡を再構築し、シティポップ・ブームの立役者となった韓国人DJ/プロデューサー。フジロックでのパフォーマンスが反響を呼び、11月27日から全国6都市を回る来日ツアーが決定。


『Night Tempo』
Night Tempo
 FUTURE 1980
発売中



Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ・ツアー
2019年11月27日(水)福岡・club evoL
2019年11月28日(木)愛知・Live & Lounge Vio
2019年11月29日(金)京都・CLUB METRO
2019年11月30日(土)大阪・CIRCUS Osaka
2019年12月2日(月)北海道・札幌SOUND LAB MOLE
2019年12月4日(水)東京・Shibuya WOMB
2019年12月7日(土)東京・CIRCUS Tokyo
https://smash-jpn.com/live/?id=3253

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