ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖

鳥居真道所持のカーペンターズ『Close To You』のアナログ盤



続く録音はティファナ・ブラスのリーダーかつA&Mレコードのボス、ハーブ・アルパートによるものです。先述の「This Guy’s in Love with You」に続くヒットを狙っていたアルパートはハル・デヴィッドを訪ねて「何かいい曲ないか子猫チャン」と聞いたかどうかは定かではありませんが、知られざるバカラック&デヴィッドの曲を求めたところ、デヴィッドはディオンヌ版の「Close To You」を聴かせたとのことです。ヒットのポテンシャルを感じたアルパートは実際に録音しますが、プレイバックを聴いているときにフィル・スペクターの片腕としても知られる名エンジニア、ラリー・レヴィンに「おまえさんの歌はひどい」と言われて自信を失い、お蔵入りにしてしまいました。このときの録音は2005年にリリースされた未発表音源集『Lost Treasures』で聴くことができます。こちらはブラジルのサンバっぽいリズムで、これまでの録音よりもぐっとテンポが上がっています。「Close To You」の陰と陽の陽の部分を全面に出したアレンジといえます。個人的には好きですが、やや陽気が過ぎるような気がしないでもないです。

自分の作品として発表することを諦めたアルパートは「Close To You」をカーペンターズの元へ持っていくことにします。彼らはA&Mとサインし、1969年にアルバム『Offering』でデビューしたものの、さほど成功できずにいました。リチャード・カーペンターはアルパートからメロディとコードが書かれたリードシードを渡されて、一つの条件を除いて好きなようにアレンジして良いと言われます。その条件とはヴァースの最後にピアノだけで演奏される単音の下降フレーズを入れることでした。アルパートはこの箇所をフックと考えていたようです。またアルパートはインスピレーションの妨げになってはいけないと思い、自身の音源を聴かせなかったとのことです。

アルパートほど熱を上げていなかったリチャードではありましたが、彼は「Close To You」をシャッフルで調理することにしました。完全に結果論でしかありませんが、このアイディアこそが「Close To You」のブレイクスルーとなったと言っても過言ではありません。

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