UK音楽シーンにおける、2020年の新たな地殻変動を読み解く

UK最注目バンドの一つ、ソーリー(Photo by Sam Hiscox)


エレクトロニック・ミュージックの現在

ここ10年のイギリスでは、それ以前のグライムやダブステップの文脈も受け継ぎつつ、ジェイムズ・ブレイクやジェイミー・xxのような才能を輩出してきた。この両者は冒頭で触れた北米の音楽シーンにも影響を及ぼしてきたわけだが、そこから数年を経て、The 1975やブリング・ミー・ザ・ホライズンといったバンドが、近作でダブステップのビートを持ち込んでいるのは興味深い。

それはまた、エズラ・コレクティブモーゼス・ボイドといった、活況著しいUKジャズの代表格の作品からも聞き取ることができる。サウンドシステムカルチャーから地続きのベースミュージックの伝統が、UKの音楽文化にしっかりと根付いていることの証左だと感じる。



「伝統と革新」といえばXL Recordingsの総帥、リチャード・ラッセルが指揮を執るコラボ・プロジェクト、エヴリシング・イズ・レコーデッドによる2ndアルバム『FRIDAY FOREVER』(4月3日リリース)にも触れておきたい。ソウルフルだった前作を経て、レイヴ〜グライムなどイギリスで育まれたダンス・ミュージックの伝統を再解釈した、実に意義深い作品となっている。

XLからは、シンガーソングライターのラプスリーによる最新アルバム『Through Water』も発表されたばかり。洗練されたエレクトロニックサウンドを軽やかに歌いこなすスタイルは、かのビリー・アイリッシュにも影響を与えたという。




エレクトロニック・ミュージックの領域では他にも、新たな才能が名乗りを上げている。ローファイハウスの質感とレイヴの記憶を携えたロス・フロム・フレンズは、フライング・ロータスに見い出されてブレインフィーダーからアルバム『Family Portrait』(2018年)を発表。ロンドンらしい折衷感覚と欧州的な実験精神でダンスミュージックをつくっているベアトリス・ディロン(Beatrice Dillon)も注目株として挙げておきたい。


Beatrice Dillonが2020年に発表したデビュー・アルバム『Workaround』収録曲「Workaround Two」

また、こちらもドミノからデビューしたジョージアは、「Started Out」と「About Work the Dancefloor」のヒットで、ニュー・オーダーからロビンまで連なるエレクトロポップの新しいスタンダードを打ち出した(彼女は90年代を代表するテクノユニット、レフトフィールドのニーク・バーンズの娘である)。キャッチーな作曲センスは、今年1月に発表されたデビューアルバム『Seeking Thrills』でも存分に発揮されている。



そのジョージアが客演しているのが、ムラ・マサの最新作にして問題作『R.Y.C』だ。英領ガーンジー島出身の彼は、洗練されたエレクトロニックアルバム『Mura Masa』(2017年)でグラミー賞にノミネートされるなどの成功をつかんだ。しかし、『R.Y.C』では刺々しいギターロック/ポストパンクに挑戦している。

ムラ・マサのギターロックへの転向ないし回帰には、スピーディー・ワンダーグラウンドのDIYな営為と、巨大なファンダムを抱えて挑戦を続けるThe 1975からの影響があるとか。「死んだ音楽を作り続けるなんて、ただの死でしかない」という彼の発言は、ここまで書いてきた生命力あふれる英国音楽シーンの裏付けにもなっている。


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