コロナ禍を癒す異例のヒット、ブルーノ・メジャーの「静かなる傑作」を2つの視点から考察

ブルーノ・メジャー(Courtesy of Beatink)


時代錯誤を振る舞う男が、2020年の社会状況とリンクしている理由

アルバムは古いソウルのレコードに二人で針を落とす「Old Soul」という曲から始まる。この曲以外にも「Old Fashioned」、「I’ll Sleep When I’m Older」とアルバムにはタイトルに「Old」という言葉が使われた曲が3曲もあって、あたかも自分は時代錯誤な男です、と言わんばかり。曲のテンポは揃いも揃ってスロー。そして、人生の普遍的な命題に向き合うような内容ばかりだ。



ただし、オールド・ファッションなスロー・ソングを弾き語るアルバムというと、リラックスした雰囲気のものを思い浮べるかもしれないが、ブルーノ・メジャーの場合はそうではない。すべての瞬間に恐ろしいほどのテンションが張り巡らされている。微細な声のニュアンスをはじめとして、完成度へのこだわりが半端なく伝わってくる。そこがアメリカではなく、イギリスのアーティストらしいところでもある。

アルバムの制作は『A Song For Every Moon』でも共同プロデューサーを務めたファイロとともに進められたようだ。サウンドの密室性は二人だけの作業が多かったからだろう。ヘヴィなローエンドも現代の録音らしい。ギター・サウンドも面白い。「Old Soul」のギター・ソロではハーモニーの重ね方、ピッチ・ベンドの凝らし方などに、ギタリストとしての彼のエフェクター・フリークぶりが垣間見えたりする。トム・ミッシュ以後、イギリスではギターの上手いシンガー・ソングライターが続々と現れているが、ブルーノ・メジャーがその中でもピカイチのテクニシャンなのは間違いない。しかし、プレイは極めて抑制的で、楽曲に必要な音しか発さないというところは徹底している。

アルバムの6曲目の「She Chose Me」はランディ・ニューマンのカバー。ニューマンのオリジナルは2017年のアルバム『Dark Matter』に収録されている。この曲と対になるのがエンディングのタイトル曲「Let The Good Thing Die」で、そのピアノ弾き語りスタイルにはランディ・ニューマンの強い影響が窺える。あるいは、諦観とほのかな希望の対比など、歌詞的にもニューマンの作風と通ずるところがあるかもしれない。

アルバムを通して、ブルーノ・メジャーは聴き手との親密さを強く意識しながら、人生の豊かさを訴えかけているようにも感じられる。密室から密室へ。そういう意味では、期せずして、この2020年の社会状況ともリンクした内容を持つのが、この『To Let The Things Die』というアルバムに思われる。ソングライティングの質、プロダクションの完成度、これを越えるシンガー・ソングライター作品が2020年に登場するだろうか。


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