60年代のアポロ計画と2020年のバーチャルリアリティ
―そうしたバックボーンが影響しているのかもしれませんが、ニューアルバム『School』にはキング・ハーベストの「Dancing in the moonlight」(72年)のカバーが収録さています。なぜこの曲をピックアップしたんですか?
MONJOE:これはちょっとがっかりすると思うんですけど、うちのマネージャーがこの曲カバーしたら?って言ってきたんですよね(笑)。しかもキング・ハーベストの「Dancing in the moonlight」じゃなくて、そのあとにカバーされたトップローダーのカバーだったんですよ。だからカバーのカバーなんです。
大井:焼き直しの焼き直しってある意味どんどん希釈されていって、原点とは全然違うものになっていくと思うんです。そしてそれが面白いだろうなって思ってカバーしましたね。
―なるほど。70年代の初頭って“MOON SONG”が流行ったんです。ニール・ヤングの「ハーベスト・ムーン」、ニック・ドレイクの「ピンクムーン」などですが、これはアポロ計画の影響です。
大井:60年代のアポロ計画の影響で、当時のミッドセンチュリーの家具などSFを模したものが多いんですよね。宇宙計画への壮大な憧れからクリエイティビティがたくさん生まれていますよね。その当時のクリエイターが何に憧れていたかを探ることは、どういう風に大衆に響くのかのいい指標になると思っている部分もあるんです。で、今の時代でいうと(憧れているのは)現実世界じゃなかったりするのかなとか思っていますけど。
―いまクリエイターたちが憧れているものは現実にあるものではなくて、バーチャルなものだと?
大井:そうですね。SFとかを読むとそれが顕著に出てくるなと思います。アーサー・クラークのようなハードSFな人たちが書いていたような未来が現実になりつつあって、いま書かれているSFの小説は、向いている先が星とか宇宙とかよりも、もっと内側というかバーチャルな世界だったりもするんですよ。そういうものをどうやって具現化していくんだろうなってところを突き詰めていくことが、どういう流行りが生まれるかみたいなところに出るんだと思っています。
MONJOE:SFの流れでいうと「Dancing in the moonlight」ってNetflixのSFドラマ『アンブレラ・アカデミー』のめちゃくちゃ良いシーンで使われているんです。宇宙飛行士とかも出てきたりするシーンです。やっぱりこの曲が出た時代の背景だったりをちょっとは意識して曲を使っているのかなって思ったりしますね。
―なるほど。で、DATS的には時代をどう捉えていて、それをどう表現に落とし込みたいと思っているのですか?
MONJOE:すごく難しいですね。SNSを見ていても、現実の自分以上に自分を華やかに見せたりとか、着飾ったりしてそれを発信していく、そういう流れが流行ってるじゃないですか。そこに対しての意識はみんな強いなと思います。例えばファッションも、音楽でもそうだけど、SNSでのリーチがまず目的っていうか、何を伝えたいかとか表現というよりも、映えたものがカッコいいという価値観は少なからずあると思いますね。
―ものを作る側としては、映える至上主義みたいな価値観に対しては肯定的なんですか? 映える・映えないで評価されてしまうことに関して。
MONJOE:今までは否定的だったんですけど、別に何とも思わなくなってきましたね。そういうこともあるよなぐらいのテンションです(笑)。