プリンス『サイン・オブ・ザ・タイムズ』 関係者が明かすリイシューと音源発掘の内幕

貴重な別バージョンを発掘するまで

―「The Ballad of Dorothy Parker」の別バージョンが収録されていて、ホーン・アレンジの入った魅力的なバージョンです。このような別バージョンを確認するのにどれだけの時間を費やしたのですか?

ハウ:とんでもない量のマテリアルを確認した。バーニー・グランドマンにマスタリングを頼んだ曲は何百とあって、そこから徐々に数を減らしていったんだ。科学捜査をイメージしてもらうといいけど、それに似たやり方でまず3分の1を除外した。そこで残った3分の2が、当初ボックスセットとして考えていた作品に合うかどうかを精査する「可能性ステージ」(universe of possibilities)に上がっていったわけだ。



―その作業の最中に、最も啓示的な意味合いを持ったことは何ですか?

ハウ:かなりの頻度で「I Could Never Take the Place of Your Man」の1979年バージョンを聞き返している自分に気付いた。このバージョンは偶然発見するまで、その存在すら知らなかったものだった。最初、カセットに入っていたラフミックスを見つけたのだが、これには日付がなかった。だから実際よりも少しあとの時期の録音だと思ったわけだ。その後、このバージョンのマルチトラックとハーフインチのラフを見つけたら、その日付が1979年4月か5月だった。プリンスがこの曲を発表するまで6〜7年も温めていたことに衝撃を受けたよ。

―この時期の作品として保存されていなかったこの曲は、どうやって見つけたのですか?

ハウ:正直なところ、完全なる偶然だった。このプロジェクトの最初の頃に見つけたんだ。



―「Power Fantastic」の別バージョンも収録されていて、この曲でバンドが方向性を見つけたのが分かります。この曲を収録しようと思った理由はなんですか?

ハウ:この曲でプリンスがバンド全員を創造プロセスに導いているのが分かると思う。みんな、スタジオのプリンスが非常に厳格で完璧主義なタスクマスターだと思っているが、ここでの彼は文字通り「間違った音なんてないから、なすがままに任せよう」と言っている。これは人々が知らなかったり、聞いたことのないプリンスの一面だ。

―あなたは毎日スタジオでプリンスの作品を聞かなくてはいけないわけですが、この時期の彼の進化はどのように聞こえましたか? 特にレヴォリューションから離れようとしていた頃の彼はどうですか?

ハウ:このスーパー・デラックス版の作業で、最後にダイブしたプリンスという海の最も深い場所が『1999』。これは彼のソロ活動最後の作品で、ザ・レヴォリューションのバンドリーダーになる出発点とも言える。そして、『サイン・オブ・ザ・タイムズ』ではバンドを放り出してソロに戻ったわけだ。そんな時期を反映した音楽のダイナミクスを聞くのは非常に興味深いね。このボックスには2バージョンずつ入っている曲が幾つかある。「Witness for the Prosecution」と「Big Tall Wall」には、まずロック・バージョンがあって、これはレヴォリューション・バージョンと言える。一方、同じ曲のソロ・バージョンはエレクトロニック風だったり、ファンク風なフィーリングが入っていて、これは時間的にあとのテイクだ。

Translated by Miki Nakayama

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