パンデミック新時代、コウモリ・蚊・ダニの恐るべき伝播力

フタトゲチマダニの繁殖は「重大な懸念」

ライム病は、地球温暖化を象徴する脅威と言える。シカダニが媒介するボレリア・ブルグドルフェリというバクテリアが原因となるライム病は、1970年代半ばにコネチカット州で発見された。現在では、健康への脅威をますます高める存在になっている。CDCによると、米国内で報告されている感染例は1990年代後半以降、3倍に増加している。ライム病は「米国民の日常生活にとって未曾有の脅威」になりつつある、とベネット・ネムサーは言う。ネムサーは、スティーブ&アレクサンドラ・コーエン財団のコーエン・ライム&ティックボーン・ディジーズ・イニシアチブを取り仕切っている。「年齢、性別、政治的関心、経済状況にかかわらず誰でも、草地にいるダニが付着する可能性がある」

ライム病を運ぶダニの生息地域が拡大してきた原因は、気温だけではない。分断化が進む米国北東部の地形にも原因がある。郊外の開発で森林伐採が進むにつれ、キツネやフクロウの数が減っている。結果として、ライム病の原因となるバクテリアを主に媒介するシロアシネズミの爆発的な増加につながった。感染したネズミにダニの幼虫が寄生し、ライム病にかかったダニを通じて無差別に人々へ拡散するのだ。

しかしベントの見解では、ダニ世界で最も懸念される状況は、フタトゲチマダニの米国への襲来だという。ベントは「教訓」と呼んでいる。オーストラリアとニュージーランドを含む東アジアを原産とするフタトゲチマダニ(学名:Haemaphysalis longicornis)が、いつ、どのように米国大陸へ上陸したのかは定かでない。米国内では、2017年にニュージャージー州で初めて存在が報告された。それから1年以内に別の8つの州でも発見され、さらに広がり続けている。急速な拡散の原因のひとつは、メスダニの特徴的な生態にある。メスはオスと交配すること無く、自分自身のクローンを再生できる。これは単為生殖と呼ばれ、制御は極めて困難だ。「この種の根絶は現実的でない」と、昆虫学者のイラ・ロクリン(ラトガーズ大学)は言う。

攻撃的なフタトゲチマダニは、大量の血液を求めて集団で標的を襲う。彼らは特に畜牛を好む。ニュージーランドやオーストラリアの一部地域では、フタトゲチマダニが原因で乳牛の生産性が25%減少した。現時点で、北米においてフタトゲチマダニがヒトへ病気を感染させた痕跡は無い。しかしまだ油断できない。マヨ・クリニックのプリットは、フタトゲチマダニの繁殖を「重大な懸念」と表現している。フタトゲチマダニは、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)や日本紅斑熱の原因となるウイルスを含む、何種類かの致命的なヒト病原体を媒介する。「これらの病原体は今のところ米国内で発見されていないが、将来的なリスクは否定できない」とプリットは語った。

Translated by Smokva Tokyo

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