パンデミック新時代、コウモリ・蚊・ダニの恐るべき伝播力

なぜコウモリが致命的なウイルスの宿主となりやすいのか?

ヘンドラウイルスが無視できないもうひとつの理由は、健康なコウモリでも感染病を持っている可能性があることを科学者らに警告した点だ。コウモリからヒトへと感染するウイルスを挙げていくと、ヘンドラ、マールブルク、エボラ、狂犬病(犬の他、アライグマなどの哺乳類からも感染する可能性があるが、米国ではコウモリが宿主となる場合が多い)と、長く恐ろしいリストになる。なぜコウモリが致命的なウイルスの宿主となりやすいのだろうか? ひとつの理由としてコウモリは、自分が病気にかからずにさまざまなウイルスの宿主となれる免疫システムを有している点が挙げられる。コウモリは長寿命(最大40年程度)で、病原菌を拡散する機会も多い。行動範囲も広く、餌を求めて一晩に50km近く移動する種類もある。さらに注目すべきは、気候温暖化の進行に合わせてコウモリは居住地を移動していることだ。「気候変動は、コウモリの生態を根本から変えようとしている」とプローライトは指摘する。「コウモリは虫を餌にする種類が多いため、気候変動はコウモリの食物源に影響を与えるだけでなく、生理的ストレスや居住場所、人間との関係性にも影響している」

ヘンドラウイルスのおかげで、疫学者らがオオコウモリとウイルスとの関係性に注目したかもしれない。しかし1998年にその関係性は異様さを増した。ヘンドラウイルスに近いニパウイルスが、マレーシアで発生したのだ。ほぼ同時期に、コウモリを宿主とする別の2種類のウイルスがアジアとオーストラリアで発見された。深刻な感染の兆候だ。「1種類の動物から4種類のウイルスが発見されることなど、前代未聞だ」とプローライトは言う。問題は「なぜか」ということだ。

ニパウイルスは、高熱、脳腫脹、痙攣といった症状を伴う特に恐ろしい病原菌で、致死率は75%に達する。生存した場合でも、3分の1は神経障害を負う。1999年に分離・特定された同ウイルスは、マレーシアとシンガポールの養豚業者や、豚との密な接触があった人々の間に広まった。養豚場近くの木にぶら下がったオオコウモリが、ウイルスに感染した自分の唾液が付着した果実を地面に落とし、それを豚が食べたのだ。ニパウイルスに感染した豚は比較的軽症だったが、ヒトの場合は約300人の感染者の内、100人以上の死亡が報告されている。感染拡大を食い止めるため、100万頭以上の豚が殺処分された。2001年には、バングラデシュで2度目の大流行が発生した。今回は、コウモリを通じてウイルスが感染したナツメヤシの樹液を口にした人々が感染した。バングラデシュでは、2001年〜2014年の間にニパウイルスの感染例が248件確認されたが、ヒトからヒトへの感染は82件だった。致死率は78%で、193人が死亡している。「ニパウイルスの感染拡大を防げた唯一の要因は、ウイルスが無症候性では無かったことによる」とプローライトは言う。「ニパウイルスに感染すると自覚症状があるため、封じ込めが容易だ」

しかしウイルスは変異し、新たな菌株が発生する可能性がある。ニパウイルスは、麻疹やおたふく風邪と同じパラミクソウイルス科に属する。どちらもヒトの集団の中で広がりやすい。ニパウイルスも、少し変異するだけで致死率の高いパンデミックを引き起こす可能性がある。「ニパウイルスの感染性が高まれば、黒死病クラスの大流行もあり得る」と、スタンフォード大学のスティーブン・ルビーは懸念する。

Translated by Smokva Tokyo

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