ヴァクシーンズが語る衝撃のデビュー作とバンドの10年史、分断の時代に鳴らす「Love」

バンドの10年史を振り返る

―今年は『What Did You Expect from The Vaccines?』のリリース10周年でもあります。4月にはあのアルバムのデモ集をリリースされていましたね。バンド初期の音源や演奏を聴いてみて、どんな感想を持たれましたか?

フレディ:そうだなあ、なんだか抽象的でエモーショナルな話にはなるけど、自分の意志やアイデアが当初描いていたスケールよりも大きなものになっていく過程を、端から眺める旅客のような気分だった。そもそもぼくらが出会って、バンドができて、作品を残せたということ自体がすばらしい出来事だったというのを感じつつね。なぜならバンドの音楽というのは自分のアイデアや意志だけで、こういうものが作りたいと思っても、その通りに完成するものではないんだ。一緒に経験したものからしか生まれてこない。だからぼくらがともに通ってきた道、共有してきた時間や場所に思いを馳せたときに、いいものが出来上がったんだなという感慨に包まれたよ。そのアルバムを一緒に作った「時間」っていうのが、自分たちにとって本当に貴重なものだったんだ。

―さらに時計の針を巻き戻すと、10代の頃のあなたがロールモデルにしていたバンドは?

フレディ:メンバーそれぞれでテイストが違うんだけど、ぼく自身はブライアン・イーノやソニック・ユースをよく聴いていた。それとは別に、ありとあらゆる新しいジャンルの音楽をサイトからダウンロードしまくって貪欲に吸収しようとしていたかな。みんなコンテンポラリーなシーンは好きだったと思う。あとはサーファー・ブラッドとか、リヴァーブのかかりまくった、一時期USで流行った感じの音にハマったりもしていた。でも結局、バンドのサウンドは作ろうと思った通りにはできないし、自分の意識的な部分が音楽に反映されるのなんてほんの一部で、無意識な部分がよほど音に出てくるものだから直接的に影響しているようには感じられないかもしれない。

―『What Did You Expect〜』はたいへん高く評価された作品です。当時の音楽シーンにおいて、あのアルバムはどんな点が特別だったと思われますか?

フレディ:シンプルな伝わりやすさがあって、音自体にフォーカスしていたことだろうね。さまざまな音楽的要素が散りばめられていたから、ロカビリーだとか、パンクに馴染みがないリスナーや、音楽的知識の乏しいキッズにもアピールできた。結局いろんな要素が凝縮していたってところじゃないかな。35分って尺に単純にいい楽曲、さまざまなジャンルがつめこまれてるインパクトというか。



―あなたにとって『What Did You Expect~』と同じくらい素晴らしい1stアルバムと言えば、何が挙げられますか?

フレディ:1stアルバムがバンドのベストアルバムだというのはよく言われることだし、いい作品はたくさん思い浮かぶけど ”同じくらい” 素晴らしいって言われると挙げるのが難しいな(笑)。でもすぐに浮かぶのは、(セックス・ピストルズの)『Never Mind the Bollocks』。本当に素晴らしい、ベストと言ってもいいデビュー作だと思う。あとはストーン・ローゼスの1stかな。やっぱり1stアルバムは最もピュアな衝動や集中力で作られているから、特別なものになることが多いよね。

―ヴァクシーンズは10年間で4枚の作品を残しています。どのアルバムも、異なる挑戦をした作品だと思いますが、あなたにとって特に思い入れの深いものを一枚あげてもらうとすれば?

フレディ:自分にとっては、すべての作品に等しく思い入れがあるよ。1作目についてはさっきも語ったけど、2作目の『Come of Age』(2012年)にはまた別の産みの苦しみがあった。1作目の後に出すというプレッシャーもあって、心情的にも混沌としていて、バンド内での諍いもあった。3作目『English Graffiti』のときは、NYに住むために生活費を稼がないとっていう現実的な問題に直面していて焦りもあったから、そもそもバンドっていうものがなんたるかを忘れかけたりもして。4作目『Combat Sports』ではそのヴァクシーンズがなんたるかという部分に立ち返るように、数多く存在するバンドのなかで自分たちがやるって意味を見出そうと思っていた。それぞれの作品は、茫々たる感情の旅路の末に完成したものだったよ。

そう思うと、これまでの作品と比べると最新作の『Back in Love City』は、ずいぶんと気を楽に作ることができたんだ。制作自体も楽しめたし、たくさんの素晴らしい人に関わってもらって、愛情が注がれて完成した作品。制作には時間を要したけど、コロナ禍での空白の時間はぼくらに成長することを要求したんだと思う。もちろん成長には痛みが伴うし、簡単なことではないけれど、自分たちにとって必要なことだったとも感じているよ。

―おもしろいのは、新作も含めた5つのアルバムすべてで異なるプロデューサーと手を組んでいることです。これは、あなたたちがアルバムを制作するにあたって、毎回「こういうサウンドにしたい!」と明確なヴィジョンを持っているからなのでしょうか?

フレディ:そうだね、もちろん構想の段階ではヴィジョンがあって、この人はこういう作品を手掛けているんだから、自分たちも変われるんじゃないか、もっとよくなるんじゃないかっていうのを元に人選はしている。でもそこから作品を一緒に作っていくと、関わる人たちの間に強い絆が生まれるんだよね。ほんの短い期間ではあるけど、旅路をともにすることでファミリーみたいな感じになるんだ。その上でこう言うと、少しネガティヴに感じるかもしれないけど、ぼくらはその旅路を毎回新しいものにしたいんだ。チャレンジが好きだし、ひとつの場所にとどまらず、変わっていきたい。自分たちにフレッシュな感動をくれる道を常に進みたいという思いがあるから、別のチームで作っているように思う。

Translated by bacteria_kun

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE