ヴァクシーンズが語る衝撃のデビュー作とバンドの10年史、分断の時代に鳴らす「Love」

エル・パソでのエキセントリックな日々

―今回はダニエル・レヴィンスキーをプロデューサーに迎えています。そもそも彼の音作りのどんな点に惹かれてお願いしたのですか?

フレディ:自分にとっては、まず彼がヴァクシーンズと一緒に作品作りをしたいと言ってくれたこと自体が驚きだったんだ。素晴らしい経歴の持ち主で、名だたるアーティストと手がけてきた名プロデューサーなわけだから。でも彼の性根はパンクだよ! というかヤバいやつなんだ(笑)。彼がスタジオにきた時に友人がトラックで迎えにきたんだけど、野良犬を3匹乗せて帰ってペットにしたりとか、とにかくめちゃくちゃなんだ。すごく背が高くて190cmくらいあるんだけど、カウボーイハットが不思議なほどよく似合う、とにかくイカしたやつさ。本当のはぐれ者って感じがする。

彼はいつだって圧倒的にポジティブなパワーで周りを励ましてくれるんだ。「お前のギターは世界一だよ。マジで最高! 愛してるよ!」ってメッセージを送ってくれたり、曲が完成したら「この場にこうして君たちといれることが人生の誇りだ」なんて、真顔で言ってくるんだ。そのエネルギーとか、波及的な陽気さって、クリエイティブの場におけるかけがえのない才能だと思うんだよ。彼の作る音は「パーティー」って感じがするね。彼はスウェーデン人なんだけど、スウェーデンの人たちってものすごく合理的で効率化を求めるんだ。でも彼はそういった面も持ちつつ、同時にアナーキストでもあって。思いついたらルール度外視で即行動したがったりだとかね。とにかく一緒にいて飽きないよ。


ダニエル・レヴィンスキー関連曲のプレイリスト。主な仕事にリアーナ、トーヴ・ロー、TVオン・ザ・レディオなど。

―テキサス/エル・パソでのレコーディングはいかがでしたか? コロナ禍で地域の散策などはあまりできなかったかもしれませんが、彼の地の気候や風土が与えた影響などを教えてください。

フレディ:最高だった! ぼくらはメキシコ国境にある牧場にいたんだけど、言葉通りに国境の壁がその建物の内部を隔てていて、国境警備隊が常に見回りにくるような場所だったんだよね。かつて囚人が捕らわれていた監獄みたいなところで寝泊りをしたりして。メンバーはベッドに幽霊がいたとか言って、翌朝ビビりすぎてスタジオにガウンを10枚くらい羽織って現れたしね(笑)。夜中に銃声がするのも当たり前、明け方に外が騒がしいと思ったら、敷地内にパンサーが出たなんて言われたり。幽霊、ギャング、パンサー、バイクで人生最高のスピード違反、もうなんでもアリさ。最初からコーニーな音楽を目指していたのはあるけど、自分は特に昔メキシコに住んでいたこともあって、砂漠だのガラガラヘビだの、カウボーイブーツだ、テキーラだっていう特有なエキセントリックなノリに馴染みがあって。そんなメキシコに程近いテキサスの空気感は確実にシネマティックなサウンドに影響しているよ。そこでの生活やリアルは、ぼくらにとってある意味で映画の中の世界のような、シネマティックな出来事だったから。



―また、フライアーズ(Fryars、マーク・ロンソンのコラボレーターとして知られる)が追加プロダクションに参加しています。彼は実際にどういう作業をしたんですか? 彼の手をくわえることで、作品はどのように変化したのでしょうか。

フレディ:フレッシュな視点を持ち込んでくれたね。半分ぐらいの曲は彼の手がかかっているんだけど、彼が手を加えると、色彩感が際立つというか、カラフルな世界観になるんだ。今回は、バンド自身でベストだと思っていたものを、ダニエルと一緒に作業をして更新して、フライアーズがやってきてまたそのベストを更新されて、さらにアンドリュー(※)がきて、といったことが繰り返されて、レイヤーが増えるたびにより強く、より輝かしく、よりクールにと、最高の状態が塗り替えられていくような感じだった。彼も本当に才能豊かで、またすぐにでも仕事したいよ。

※ミックスを担当したアンドリュー・マウリー。主な仕事にポスト・マローン、リゾなど。

―プロダクションの新鮮さにまず耳を奪われるものの、今作はソングライティング面での充実にも目を見張るものがあります。メロディーメイカーとしても、満足のいく作品になったんじゃないですか?

フレディ:そうだね、ソングライティングにも満足しているよ。文化的背景を感じさせながらもモダンで、アグレッシブだけど美しい。紙をどんどん折り重ねていくと、どんどん強度が増していくけどある一定の時点から折ることができなくなるっていうよね? 今回の歌詞は、限界まで紙を折る作業の積み重ねみたいに、言葉を集めては無駄を省いて、ギリギリのところまで精度を高めていった感じなんだ。ある種のカジュアルさやロックンロールであることは保ちながらね。さっきも「旅客」をいう表現をしたけど、アルバムを作るときにはベストなものが提供できるように最大の努力をする。今回の作品においても、その旅の過程は素晴らしかったよ。



―なにより素晴らしいのは、デビューから10年以上を経て、ヴァクシーンズがロックンロール・バンド特有の楽しさや躍動感を失っていないことだと思います。「Jump Off The Top」や「Peoples Republic Of Desire」はあなたたちの十八番というべきサウンドですが、こうした楽曲をバンドで鳴らす楽しさは不変なのでしょうか?

フレディ:ああ、もちろんだよ! ぼくは自分がいつだってエッジの先に立っているという意識を忘れたくないんだ。たとえば音が多少悪くなるだとか、なにか弊害があるとしても、選択肢がある中でチャレンジするってほうをいつだって取れるように。これは自分の問題点でもあるんだけど、快適すぎる場所にずっととどまるってことは自分にとってあまり心地がよくないんだ。だからこそ常に切っ先にいたい、そういった意識がサウンドの変わらぬ躍動感につながっているのかな。

真剣にやることも、ときにクレイジーにできることも、素晴らしいと思うけど、とにかく現時点での自分のベストが出せるように、ライブではすべてのエネルギーを注ぎ込むことにしている。たとえ楽屋でリラックスしていても、本番前にはここにはチルしにきたんじゃない、全力を出しに来たんだって自分を追い込んで、やるだけやったらぐっすり眠れるのさ。そもそもぼくらなんかよりも1日中働いてセッティングをしてくれているクルーやスタッフのほうがよっぽど大変だし、チケットを買ってショウを見に来てくれているお客さんのためにも常に全力で挑む。そのメンタリティが、ぼくらのサウンドを保っているんだと思うな。




ザ・ヴァクシーンズ
『Back In Love City』
発売中

Translated by bacteria_kun

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE