反ワクチンに人種差別、エリック・クラプトンの思想とどう向き合うべきか?

トランプ支持者もクラプトンを歓迎

クラプトンが家族所有のバンをJam for Freedomに貸すと申し出たあと、マクローリンはロンドンにあるクラプトンのレコーディングスタジオに赴き、青いセーターとモカシンシューズというカジュアルないでたちの本人と対面した。マクローリンもワクチンに慎重だ。「ワクチンのせいじゃありません。僕はまだ受けてませんがね」と彼は言う。「大金を積まれない限り、新しい技術の治験を受ける気にはなりません。僕らはただ、『自分の身体に何を取り入れるかは自分で選ばせてくれ、強制するな』と言っているんです。こんなに大勢の人が声高にあれしろこれしろと言ってくれば、疑わしくもなるでしょう。大勢の人が危険を感じているんです」

マクローリンの話では、クラプトンは今もワクチンの後遺症が残っていて、数カ月もギターを弾けずにいると彼に語ったそうだ。「一緒にジャムセッションをしたかったんですが、あの時の彼の病状では演奏するのは困難でした。副反応で指が冷たくなっているのに外で演奏するなんて無理です」とマクローリン。「彼にとってどれほどストレスだったか、想像がつくでしょう」。クラプトンはマクローリンとバンの隣に並んで写真を撮った。のちにJam for Freedomは、その写真をソーシャルメディア・チャンネルに投稿した。


クラプトンの隣に並んだ、Jam for Freedom創設者のキャンベル・マクローリン(Courtesy of Jam For Freedom)

1976年の暴言に対するぶざまな対応と同様、クラプトンは今回も黙ってはいなかった。彼は声明を発表し、今後「選別された観客」の前では演奏しないと宣言した。つまり、ワクチン接種証明が要らない会場でしか演奏しないというのだ。

9月の全米ツアー初日の直前、彼はワクチン接種への抗議と思しき新曲「This Has Gotta Stop」を発表した。“何かおかしなことが起きていると思った/君が芝生に寝転がり始めると/俺の手は動かなくなり、汗が噴き出す/泣きたい気分だ、もう二度とごめんだ”。さらに強調するかのように、ミュージックビデオのアニメーションでは一般市民が操り人形として描かれている(数週間後、彼はこの曲のニューバージョンを発表した。ご想像の通り、サックスソロと追加のヴァースを担当しているのはヴァン・モリソンだ)。

「イーノック・パウエル騒動の二の舞のようです」とオークス氏は言う。「彼が実際に世界情勢に牙をむいたのは、私が思いつく限りではあれが最後でした。彼は基本的に胸の内を明かさないタイプですからね。あれは明らかに昔の話ですし、大量のアルコールが引き金でした。今回は言い訳できません」



クラプトンはOracle Filmsとのインタビューで、自分の意見を表明すると「トランプ支持者だというレッテルを張られる」と不満を漏らした。だが、彼の旧態依然な気質は少なくとも2007年にまで遡る。この時クラプトンは、ブライアン・フェリーやスティーヴ・ウィンウッドとともに、イングランドのバークシャーの古城で行われた「食料、農業、カントリースポーツ」を推奨する団体Countryside Allianceのチャリティコンサートで演奏した。ここでいうカントリースポーツには、狩猟犬を狐に向かってけしかける野蛮な狐狩りも含まれている。イギリス政府は動物虐待と狩猟が象徴する階級格差を理由に、この伝統を廃止している。

当時クラプトンの代理人は、彼がAllianceを支援していることを認めたが、「彼自身は狩りをしない」と述べた。同団体に憤りを覚える音楽仲間は今もいる。「エリック・クラプトンは大好きだ。彼は僕のヒーローだが、彼とはいろいろな点で意見が異なる」と、ブライアン・メイはインディペンデンス紙に語った。「彼は娯楽で動物を撃っても構わないと思っている人間だ。そこが僕らの意見が合わないところだ」。その一方で、クラプトンの姿勢に別のグループが味方に付いた。上述のコンサートのおかげで、全米ライフル協会は「エリック・クラプトンも狩猟を支持」と、サイトにでかでかと謳った。

ワクチン懐疑派の眼には、共和党の州で、屋内アリーナで演奏することは抵抗運動と映った。全ページ白紙のベストセラーとなったノベルティ本『Reasons to Vote for Democrats: A Comprehensive Guide(民主党に投票するべき理由:徹底ガイド)』の著者でもある保守派の若手評論家マイケル・ノウルズ氏は、「エリック・クラプトンはファウチ博士よりもずっと信頼できる人間だ」とツイートした。ローリングストーン誌の取材に、ノウルズ氏はこうした評価をあらためて表明した。「クラプトンは科学だの衛生だののことを、もったいぶって話しているわけじゃありません。彼はワクチンを打った自分の経験に基づいて話しているんです」と彼は言う。「いろいろな意味で、エリック・クラプトンはこの問題やその他の問題に関して、ファウチ博士よりもずっと信憑性があると思います」

現在31歳のノウルズ氏は大半のクラプトン・ファンよりも若い。医療制度に対するギタリストの姿勢はロックのルーツに根差している、と彼は考える。「すごいことです」とノウルズ氏。「これぞまさに本物の、権威に物申すロックスターです。それがかつてのロックンロールの姿ですよ。ロックも年を重ねるにつれて、社会に蔓延する確立された意見に甘んじるようになってしまった……エリック・クラプトンは、オーディエンスが医療上の判断は自分で下せると信頼しています。この国では昔はそれが当たり前だった。今ではもう、そうではなくなってしまったようです」

Jam for Freedomのマクローリンも状況をまったく同じように捉えている。クラプトンとの対話で、さらにその思いは深まった。「僕らは実質的に、60年代に彼や仲間たちがやっていたことをやっているんだ、と彼は言っていました。自由を擁護し、政府や社会の支配から逃れるのだと」とマクローリンは言う。「彼は僕らに何度も言いました、『これが俺たちのやっていたことなんだ』と」

Translated by Akiko Kato

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