『ザ・ビートルズ:Get Back』は期待以上に最高だった 絶対に見ておくべき理由とは?

バンド内の諍いも生々しく

『Get Back』はバンド内の諍いをなかったことにするのではないか、と懸念した人もいるだろうが、心配ご無用。ピリピリした場面も登場する。偉そうに怒鳴り散らすポールを横目に、ガムをくちゃくちゃ噛むジョン。ジョージはいつものように、我儘な女王よろしくふるまっている。『Get Back』には貴重なジョージの塩対応っぷりも満載だ。「この曲のタイトルは『I’ve Got a Feeling?』だっけ?」とポールに冷淡に尋ねるジョージ。ビートルズが映画史上指折りのコメディ軍団に挙げられる理由は、何より彼の存在が大きい。

映画版『レット・イット・ビー』でもっとも有名なのが、ポールとジョージがギターのパートをめぐって激しくやり合うシーンだ。「お前の気に入ることは何でもやってやるよ」とジョージが小ばかにしたように言う。彼は冷たい視線を送りながら一呼吸置いて、「でもお前は自分でも何が気に入ったかわからないだろうな」と言い放つ。彼はその気になれば、あのベティ・デイヴィスさえも熱狂させることができた。

だが前後関係を知っているだけに、『Get Back』のこの場面はなんとも痛ましい――2人が言い争っていた曲は「Two of Us」。ポールとジョンが愉快気に視線を交わしてハーモニーを奏でる一方、ジョージの顔にはふつふつと怒りが燃えたぎっているのがわかる(ハリスン、君はポーカーには向かないな)。当然ながら、彼の怒りの原因はこの曲だ。ジョン&ポールのデュエットからつまはじきにされたと感じ、怒り心頭だったに間違いない。ディランやザ・バンドといったミュージシャン仲間をはじめ、地球上の誰もがジョージを世界トップクラスのアーティストとみなしていた。だがビートルズは、いまだに彼を子ども扱いしていたのだ。

底なしの忍耐力を持つストイックな聖人リンゴでさえ、堪忍袋の緒が切れた(リンゴにも堪忍袋があったとは!)。これでバンドは終わりだね、と『レット・イット・ビー』の監督が言うと、リンゴがキレる。「俺たちの機嫌がちょっと悪いからって、憶測でものを言うな!」 仲間を擁護するために加勢するリンゴの姿は感動的だ。ビートルズは日がな互いの足を引っ張ることもあったが、この期に及んでも外部の人間に一切口出しさせなかった。ビートルズのメンバー以外で彼らが信頼を置いていたのはただ1人、忠実なツアーマネージャーのマル・エヴァンスだけ。この映画の影のヒーローは、『ロード・オブ・ザ・リング』に例えれば、4人のフロドを支えるサム役だ。

Translated by Akiko Kato

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