『ザ・ビートルズ:Get Back』は期待以上に最高だった 絶対に見ておくべき理由とは?

解散間際の「知られざる」素顔

しかし、バンドと撮影クルーの間にはつねに緊張が走っていた。監督は演奏を中断して、いちゃもんをつけずにはいられなかった。バンドが1日スタジオを空けていた時、撮影クルーが楽器を手にして即興演奏をする、という醜態をさらした場面もある(こいつらは『ハード・デイズ・ナイト』を見たことがないのか? 誰もリンゴのドラムに触れちゃいけないんだぞ! 奴らは彼の伝説に大きな影を落とした)。

ある朝ジョンは、前の晩に会ったばかりの男、マネージャーのアラン・クラインについてジョージに語る。「彼は君と同じぐらい僕のことを知ってるんだ! すごい奴だよ」 バンドの終焉にクラインが果たした役割を考えると、なんとも悲しい。タイタニック号が氷山を前にした瞬間だ。

一方で屋上ライブの日が近づくにつれ、締め切りが刻一刻と迫ってくる。曲数が足りないとジョージ・マーティンが不平をもらすと、ポールは「まだリハーサルすらしてない曲がたくさんある。今は『Mother Mary』と『Brother Jesus』というスローナンバーを2曲やっているところだ」と言って彼を安心させる。だが表向きは陽気にふるまいながらも、内心ポールも心配になっていた。「あてもなくさまよっているだけではどうにもならない」と打ち明ける。最終的に屋上ライブをやり遂げた時、彼らがほっと胸をなでおろすのが見て取れるが、同時に演奏のすばらしさに本人たちも驚いていた。「I’ve Got a Feeling」を終えたところで、ジョンが思わず「ファック、イエー!」と叫ぶ(どういうわけか、この一声はのちにリリースされたバージョンにも収められている)。

だが『Get Back』でもっとも胸を打つシーンは、ジョージが辞めた後だ。彼が戻ってくるかのどうか、誰にも分らない。皆が集まってヨーコについて文句を言う中、ポールは彼女を弁護する。「50年もしたら笑い話になるよ、『彼らはヨーコがアンプの上に座ったから解散したんだ』ってね!」と冗談を言う。みな笑い声をあげるが、ポールの瞳には悲哀の色が浮かんでいるのがわかる。自分の人生が変わっていくのを彼も自覚している。彼は自分でもはっきり理解できないものの渦中にいた。ピーター・ジャクソンが昨年ローリングストーン誌に語るまで、誰もこの瞬間がフィルムに収められていたことを知らなかった。カオスのさなかも、ともに演奏するチャンスを少しでもとらえようとしていた4人の青年たち。おぼつかない友情だったが、暗闇の時期にあっても、4人全員がバンドを継続させようと奮闘していた理由が伺い知れる。

【関連記事】ザ・ビートルズ解散劇の裏側 メンバー4人の証言と映画『Get Back』が伝える新発見


From Rolling Stone US.




©2021 Disney ©2020 Apple Corps Ltd.

ドキュメンタリー作品『ザ・ビートルズ:Get Back』
■監督:ピーター・ジャクソン
■出演:ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター
11月25日(木)・26日(金)・27日(土)
ディズニープラスにて全3話連続見放題で独占配信スタート
公式サイト:https://disneyplus.disney.co.jp/program/thebeatles.html


公式写真集 『ザ・ビートルズ:Get Back』 日本語版
ページ数:240ページ
サイズ:B4変型判(302mm x 254mm)
ハードカヴァー仕様(上製本)
詳細:https://www.shinko-music.co.jp/info/20210129/


ザ・ビートルズ 
『レット・イット・ビー』スペシャル・エディション
発売中
ユニバーサル・ミュージック公式ページ:https://sp.universal-music.co.jp/beatles/

Translated by Akiko Kato

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE