無差別殺人・傷害事件から考えるメンタルヘルスの問題

アメリカの犯罪学者、J・レヴィンとJ・A・フォックスは、「大量殺人の心理・社会的分析」で、こうした犯罪を引き起こす要因として以下の6つを挙げています。

1 長期間にわたる欲求不満
2 他責的傾向
3 破滅的な喪失
4 外部のきっかけ
5 社会的・心理的な孤立
6 大量破壊のための武器の入手

1、5、6に関しては、その言葉通りの意味になります。2は欲求不満の原因をすべて他人に求めようとする傾向です。3は、それによって「自分は破滅した」と思うような何らかの喪失体験です。4は、様々な外部での事象がきっかけとなり得ますが、何らかの事件が発生しそれに影響を受けて模倣するということもこれに該当します。

この6つの要因には個人的な要因も関係してきますが、私たちが考えるべきは社会的要因の影響の大きさです。前回の「『不平等な社会』がもたらす格差からメンタルヘルスの悪化を考える」で取り上げた格差の問題はすべての人に「長期にわたる欲求不満」を生じさせます。また「他責的傾向」になる原因の一つに、過度な自己責任論の影響があります。精神科医の片田珠美氏は「自己責任論を突き詰めると、うまくいかないのはすべて自分のせいということになるが、それを認めるのは非常につらい。何よりも、自己愛が傷つく。だから強い自己愛の持ち主ほど、自己責任を否認して、『自分に能力がないわけでも、努力が足りないわけでもなく、○○のせいでこうなった。自分はあくまでも被害者なのだ』と思い込もうとする」と指摘しています。このように、自己責任論が強くなればなるほど、自分の保身のために他責的傾向が強まるという矛盾と悪循環が生じるのです。

Rolling Stone Japan 編集部

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE