オーロラが自由を追い求める理由「音楽やダンスは生きてる意味そのもの」

 
「自由な遊び心」の背景にあるもの

―サウンドのみならず、歌詞にも変化が感じられます。2019年11月の初来日時にあなたに話を聞いた際、こう話していました。「4歳の頃からいつも死について考えていました。死という概念を深く理解したかった。私は死が怖いわけじゃなく、生き続けることのほうがむしろ怖いと思ったりもする」。実際のところ、以前の作品には死がテーマになった曲が多かった。でも今作では、生きている実感だったり、生命の強さだったり、こう生きたいという願いだったり、自分らしく生きることを抑えつけようとする世の中に対しての意志だったりが歌われている。あなたのなかで「生きる」ということの捉え方に何か変化があったのでしょうか?

オーロラ:少しあったわ。死についてはいまでもよく考える。自分の生き方や考え方の大きな部分を占めているから。全てのものがそうであるように、私の命もいずれ尽きる。できれば自分が人生に対して満たされた気持ちを十分持ってからであってほしいけどね。でも死は必ず訪れるわけで、その意識が生き方に大きな影響を与えている。死をイメージすることで、生きて経験する些細なことに意味を見い出せるの。今朝、私は紅茶を飲んで、その香りを楽しんだ。それもひとつの生きる意味だし、自然を見ること、風を感じること、空を飛ぶ鳥を目で追うこともそう。日々のどんな些細なことにも意味がある。でもそれをすごく重要なこととして捉えなきゃダメだと言いたいわけではないよ。煮詰まったときは、肩の力を抜いて、そこにいるだけでもいい。このアルバムではそういうことを歌っている。自分なんかダメだってずっと思っていたら、一度しかない人生を謳歌できないからね。ただ、生きて、匂いを嗅いで、味わって、踊るだけでいい。そういうことを伝えたかったの。



―COVID19のパンデミックによる世界の変化、人々の生活様式や考え方の変化が、今作のトーンやメッセージ性に繋がったというところもありましたか?

オーロラ:多少はあったと思う。アルバムを作るときはいつも、「アルバムが出た2年後はどんな世界になっているだろう」って想像してみるのね。今回も想像したんだけど、現在のパンデミックの状況を考えてみたときに、みんながこれから聴きたくなるのは明るくて自由で遊び心が感じられるような作品なんじゃないかなって思って。そろそろもう、ありのままの自分を讃え、互いを讃え合うことをしたいし、そういう気持ちになれる作品を聴きたいんじゃないかってね。パンデミックを経験して一回立ち止まったことで、私たちはいままで見えなかったことも見えるようになった。社会の問題もそうだし、自分の抱えていた問題も。そうして本当に大切なものは何かがわかるようになってきたってところはあると思うし、自分もそうで、そのあたりが作品に反映されたところはあるでしょうね。

―今回のアルバムはヴォーカル表現も多様で、いろんな声の出し方を試していますよね。自分の歌声に対する新しい発見もあったんじゃないですか?

オーロラ:うん。年齢を重ねるにつれて自分の声を自在に使えるようになってきたってところは確かにあって。いまはノルウェーのフォークミュージックを歌うときのように原始的な歌い方をすることもできるし、繊細な歌い方もできるし、オペラのように歌い上げることもできる。声は、私がこれまで手にしたどの楽器よりも魅力的な楽器だなって思うの。これからもっと幅を広げていきたい。どんな声の出し方ができるようになるのか、自分でも興味がある。



―ところでさっき「Cure For Me」の話が出ましたが、同曲のMVではクルクル変化する豊かな表情と可愛らしいダンスも印象的でした。ダンスはコレオグラファーによる振り付けがあったのですか、それとも自由に踊ってみた感じなんですか?

オーロラ:ほとんどの部分はフリースタイルで踊ったもの。緻密に計算しすぎず自由にやったほうが魔法が生まれやすいからね。とはいえ撮影にはYaniv Cohenというコレオグラファーもいて、ダンサーみんなが揃うように指揮してもらった。最後はみんなにも自由に踊ってもらったけどね。サビの部分でみんなで揃ってするダンスは私が昔から温めていたアイデアで、ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』からインスピレーションを受けたの。退屈なパーティーで、退屈なひとたちに対して、アリスが「退屈なのは嫌。私は私」と訴えるときのダンス。「Cure For Me」にぴったりでしょ(笑)。

―確かに。ダンスもあなたにとっては、歌と同様、大切な表現なんですね。

オーロラ:もちろんそう。家でしょっちゅう踊ってるの。だって気持ちいいから。子供の頃は歩くより前に踊っていたくらい。ひとは遥か昔から踊ったり歌ったりしてきたし、本来踊ることが好きなはずなんだけど、街中でいきなり踊り出したりしたらヘンなひとだと見られちゃう。けど、踊りたくなったら踊ればいいって思うんだよね。音楽やダンスは感情と繋がっていて、人間が古来から持っていた何かを呼び覚ましもする。踊ったり歌ったりすることで、人間に限らずあらゆる生命と繋がれる感覚がある。音楽もダンスも私にとってはすごく美しくて、生きてる意味そのものって感じ。みんなも私のこのアルバムの、例えば「Giving In To The Love」や「The Innocent」や「Temporary High」なんかは踊りながら聴いてほしいな。「かっこよく踊れない」なんて思わないで。自分らしく自由に踊るのが一番いいんだから。そうすると自分らしく生きることの足枷になっているものがなんなのかもわかってくると思う。それを捨てて解放されるの。そしたらきっと、この世に自分が存在していることだけで素晴らしいんだって思えてくるから。






オーロラ
『The Gods We Can Touch』
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Translated by Yuriko Banno

 
 
 
 

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