ホレス・アンディ レゲエ界の伝説が振り返る50年の歩み、マッシヴ・アタックとの邂逅

 
マッシヴ・アタックとの邂逅

─今回の作品ではマッシヴ・アタックの「Safe from harm」をカバーしていますね。マッシヴ・アタックとの最初の仕事は、当初どのような形でオファーがきたんでしょうか? ダディー・Gがスタジオワンのコレクターであなたの大ファンだったという話をきいたことがありますが。

ホレス:そのとおりだよ。あの曲は僕が大好きな曲なんだ。エイドリアンには、今回収録されているのとは違ったバージョンを最初送ったんだけど、エイドリアンは気に入らなかったみたいなんだ。だからマッシヴ・アタックと同じオリジナルのベースラインを使ったバージョンが収録されている。問題ないけどね。マッシヴ・アタックとの最初の出会いは、オファーが来たとかではなく、ある日、僕の友だちが「シンガーを探してる友人のグループがいる」というぐらいで、それで友だちが僕のことを彼らに話したら、リディムを送ってきて、それで聴いて、歌ってみてほしいって、それでそのリディムに乗せて歌った。それがマッシヴ・アタックとの最初のリリースになった「One Love」(1991年『Blue Lines』収録)だったんだ。(しばらく「One Love」を熱唱)それですぐに大波が来た(笑)。これまでのマッシヴ・アタックとの曲でナンバーワンは「Angel」(1998年『Mezzanine』収録)だけどね。

─彼らのサウンドをはじめて聴いたときはどのような感想をもちましたか?

ホレス:もちろん気に入ったよ。だから今日までずっと一緒に活動してる。





─あなたの代表曲でもある「Skylarking」(※)をはじめ、今回収録されている「Materialist」、新曲「Easy Money」など、あなたの曲には、まるでジャーナリストのような、社会を切り取ったリリックが多数存在します。こうした目線、リリックを作るセンスはどのように養われたのだと思いますか?

※1972年の1stアルバムのタイトルともなったスタジオ・ワン時代の代表曲、ストリートに巣くう根無し草の若者たちに「まじめに仕事をしないとやがて刑務所行きだ」と説くなど、その社会への眼差しは、その後のルーツ・レゲエのコンシャスな歌詞へと結実していく。

ホレス:いわば授かり物だよ。母のお腹にいたときからもうすでに備わってたんだ。恵みのギフトだね。さらに僕は歴史の本、例えばマーカス・ガーベイ(※1)の本などたくさん読んでるし、マーカス・ガーベイの国際連盟でのスピーチを何度も聞いたり、ボブ・マーリーの曲もたくさん聞いてきた。僕は若いときから、自然とラスタマンの言う言葉を聞いていた。コンシャス・ミュージックを聞けって言われたことはないけど、コンシャス・ミュージックばかり聞いていた。母はいつも「そんなの音楽じゃない! 毎日ラスタの音楽ばかり!」って言ってたよ(笑)。母はデリック・モーガンとかドン・ドラモンド(※2)とかが好きだったから、ラスタの音楽は好きじゃなかった。でもそのうちラジオで自分の息子の曲が毎日かかるようになったら、「これわたしの息子が歌ってるのよ!」ってよく自慢して、ラスタの音楽も好きになったんだ(笑)。

※1:1887年生~1940年没。ジャマイカ出身でアメリカ~カリブ地域で活動したブラックナショナリズムの先駆的活動家。後のジャマイカのラスタファリアニズムに強い影響を与え、ルーツ・レゲエの歌詞のモチーフに頻出する。アメリカのネイション・オブ・イスラムなどブラック・パワー系の運動にも強い影響を与えた。

※2:ラスタファリアニズムに影響されたコンシャスな歌詞が主なモチーフとなるルーツ・レゲエが流行する以前、60年代ジャマイカの代表的アーティスト。前者はスカ~ロックステディのシンガー、後者はザ・スカタライツのトロンボーン・プレイヤー。ちなみに後者はラスタファリアニズムに傾倒していたと呼ばれているが、ここでは当時の過去のアーティストの例ということだろう。



─コロナ禍の世界は、あなたのそのジャーナリストのような視点から見て、どのように見えますか?

ホレス:僕は預言はなにできないよ。でも今の時点だと、コロナが消え去るようには思えない。エイズが今もあるように、そうやって何年かかっても、存在し続けるんじゃないだろうか。とにかく、まったくわからないな。でも悪魔が冒してはいけない自然の領域を冒してしまうとこうやって手に負えないことになるんだ。神を愛する人たちがこんな事態を引き起こすわけがないからね。悪魔の仕業だよ。核兵器だってそうだ。世界にはお腹をすかせた人が大勢いるのに、まだ武器を作ってる奴らがいるんだ。そんなことをしているくせに、そんなやつらが、僕たちに神について語ってくる(笑)。

Translated by Ayako Iyah Knight

 
 
 
 

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