Open Reel Ensembleが語る、妄想ジャンル「マグネティックパンク」とは?

 
マグネティック奏法を共有するために

―話が壮大になってきましたが、その理論は新曲「Magnetik Phunk」にどのように反映されているんでしょう?

匡:僕が作曲したんですが、あの曲は、「楽器が全部なくなってオープンリールだけが残った世界で彼らはどんな曲を作るのか?」っていうところから発想が始まってます。遺跡になった音楽スタジオにオープンリールテープが埋まってて、そこには今でいうエレキベースとかギターとか、誰かのラップとかの音の断片が残されてる。それらの音をもう一回組み立てた、っていう曲なんです。

和田:前提が全部おかしいんだよね(笑)



―「Magnetik Phunk」の説明にある「火星人が攻めてきた」というストーリーはどこから?

和田:遺跡で発掘されたオープンリールテープの一つに、「火星人が攻めてくる」っていうニュースを朗読した声が入ってるんですよ。

これはアメリカで実際にあった事件で、当時それをラジオドラマとして流したら、本当に火星人が攻めてくるってパニックになったっていう出来事があって。それと同じことがまた未来に勘違いで起こるんです。「『火星人が攻めてくる』と言ってる! でも僕らはオープンリールしか持ってない! どうやって戦おう!?」ってなった時に、オープンリールで演奏した曲を火星に向けて送信することを思いつく。火星人を磁気波で踊らせるべく、非暴力で戦おうとする「オープンリール楽団」が立ち上がる。そんな人達がいたとしたらこれを奏でるのかもしれないです。

匡:今話しててわかったと思うんですけど、最初のアイデアを出したのは僕ですが、途中から3人で一緒に考えてます。話していく中で、ああでもないこうでもないと設定が盛られていく。

―曲を作ろうと思ってそういうストーリーを考えるのか、それともストーリーが生まれてそれが曲になっていくのでしょうか?

悠:「オープンリール的にこういう演奏したらおもしろそう」っていう観点と、「このストーリーをベースに曲を膨らませよう」っていう観点の半々ですかね。表現を追求する中で奏法を模索するのはもちろんなんですが、ストーリーを考えることでその曲の"根拠"がハッキリしてきて、やるべきことが見えてくるイメージ。

和田:誰かしらが何かのアイデアを持ってきて、曲の大体の骨格を作ったら、まずは「せーの」で演奏してみる。セッションしていく中で、テープビブラートかけようとか、回転数を上げようとか、巻き戻そうとか、練り上げていく。奏法と音色と曲が行ったり来たりする感じです。



―ここまでコンセプチュアルなお話をお聞きできるとは思っていませんでした。みなさん、物語などを空想するのがお好きなのでしょうか。

和田:シンプルに、僕らはSF映画が大好きなんです。マグネティックパンクの映画が作られるというごくわずかな可能性がある以上、先にサウンドトラックを作っておこう、って。いつでもクリストファー・ノーランさん、ドゥニ・ヴィルヌーヴさん、リドリー・スコットさん、音楽オファーはもちろん、出演オファーもお待ちしています(笑)。

悠:ああだこうだと話してるうちに曲っぽくなったりして。曲を作る時も「さあ新曲を作ろう」っていうより「できちゃった」みたいなことが多いです。

匡:今日のライブの1曲目(「マグネシア舞曲」)もこないだ作った新曲なんですけど、マグネシアの民族音楽ってどんなもの?っていう話が発端になっています。

和田;マグネシア民謡ね。456年くらい伝わってるのがあるはず、だから今度のライブでやんなきゃ、ってなって作りました。ちなみに、2曲目(「NAGRA」)と4曲目(「Space Fushigi part 2」)は、マグネティックパンク界のクラブで流れてるはず、っていうところから生まれた曲です。

―今お聞きしてきたお話の一部は、今回刊行されたデジタルブックにも記載されていますね。本や文字の形にして出そうと思った理由はなんだったのでしょうか?

悠:曲だけじゃなくてストーリーや演奏の裏側も伝えたいっていうのがシンプルな理由ですね。

和田:音だけでは表現しきれなかったりして、テキストやイラストも一同で描き下ろしました。それと最近、「どうやって演奏してるの?」とか「こういうふうにやってるんじゃないかと考えてるけど、それは正しいのか」とか、「マグネティック奏法を学びたい、どうやったら弟子入りできるのか」という問い合わせが主に海外から結構くるんですよ。僕らは好きにやってくれって思うんですけど(笑)、それを一人一人に教えていくのは大変だなって。だから、「奏法 2022年版です」ってまとめた章もつくりました。オープンリールを演奏する人が現れたら、ビッグバンド編成で長時間演奏するようなマグネティック・ムカームができるかもしれない。

匡:オープンリールバンドとオープンリールバンドの対バンもいつかやりたい(笑)。


デジタルブックの紹介動画

和田:実際、デジタルブックはマニアックな内容ではあるんですが、僕らに興味を持ってくれた方に対して、色んな角度から楽しめるものとして間口を開きたかったんです。電子書籍だったら動画も埋め込めるので、レコーディング風景だったり、それぞれの楽器が出してるのはこんな音だっていうのがわかるように、演奏をセパレートした映像も収録しています。

悠:「オープンリールの弾き方」なんて多分誰も知らない、というか存在しないから(笑)、そもそも何やってんの?っていうことを紐解くだけでもコンテンツになる。僕らもそれを伝えることが楽しいし、それを読んで喜んだり、演奏してみる人が現れたら嬉しい。だからガンガン真似してもらっていいし、そうやって広がっていく現象自体がもはやマグネティックパンクだと思ってます。

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE