!!!が語る波乱含みの新作、XTCやR.E.M.の影響、日本でのクレイジーな経験と若さの秘訣

 
日本でのクレイジーな経験

―久々に来日が発表されて、うれしい限りです! 日本には2004年から数えて、もう12回は来ているはずですが。一番最初に来日したときのLIQUIDROOMやフジロックについては、何を覚えてますか?

ニック:最初に東京に着いた時、みんなが持ってた携帯がデカくてびっくりしたのを覚えてる(笑)。今はスマートフォンが主流になったけど、当時は日本の方が電子機器に関してはだいぶ先を行ってたんだよな。で、さすが日本!って思ったんだ(笑)。あのあと、アメリカの携帯もデカくなっていった。LIQUIDROOMのショーは、飛行機から降りてすぐで、全員時差ボケがやばかったんだ。でも日本に来た興奮で乗り切った。あと、日本のオーディエンスは他と違うなと感じたのも覚えてる。俺が踊って腕を右に出せば全員が右を見て、左に動かせば皆が左を見るんだよ(笑)。ワーオ! 日本のオーディエンスは俺の動きの一つ一つを見てるんだ!って思った(笑)。あれは面白かったな。




2004年7月30日、恵比寿LIQUIDROOMで開催された初来日公演にて。その後、8月1日にフジロック初出演を果たした。


―何回も出演したフジロックでは、2007年に一番大きいGREEN STAGEへの出演も果たしました。あのような大会場から、2019年の京都メトロのようなクラブまで、いろんなタイプの会場でやってきましたが、日本でのライブで特に印象に残っているのは?

ニック:やっぱり2007年のフジロック。あのショーを最後にジョン・ピュー(Dr,etc.)がバンドを抜けることがわかっていたからね。ショーのあとも、バックステージで彼と多くを語って、そのあと彼はバンドから去って行った。あの時はめちゃくちゃ悲しかったし、本当に特別なショーだったんだ。すごくクレイジーでエモーショナルな瞬間だったね。

―日本での最もクレイジーな想い出、ベスト3を挙げてください。

ニック:一つはその日の夜。渋谷に帰ってきてカラオケに行ったんだけど、隣の部屋の人たちが俺たちの部屋に入ってきて、最高に楽しかった(笑)。暑いからとか言って、みんな上半身裸でさ。彼らが乱入してきた時、皆でレッチリを歌ってたんだけど、彼らはレッチリを知りもしなかったのにめちゃくちゃ盛り上がってた(笑)。あとは初めて来日した時、あらゆるものがアメリカと違っていて驚いた。ドアの取っ手だってそうだし、とにかく色々。あとはelectraglide。朝の7時に外に出たら、超高速で車が走ってレースしてたんだよ。それで警察が来たんだけどさ、パトカーのスピードが遅すぎて笑えた。相手はレースカーでビュンビュン飛ばしてるのに、ゆっくり走っててさ(笑)。




2013年、千葉・幕張メッセで開催されたelectraglidにて。ローリング・ストーンズ『女たち』柄の短パンも話題に。Photo by Tadamasa Iguchi


―!!!の音楽は、ありとあらゆるジャンルの影響を吸収して生まれたものですよね。「!!!を作ったレコード」を、今思いつく限りでいいので挙げてみてもらえますか? 料理のレシピを教えるような感じで。

ニック:アウトキャストの『Stankonia』は確実にその一つ。一つのアルバムに、様々なアーティストによる種類の異なる曲、違う種類のサウンドが沢山詰まってる。俺たちは本当にたくさんのレコードに影響を受けているけど、その中でも金星なのがそのアルバムなんだ。あんなレコードを俺たちも作れたらっていつも話してるよ。



―あなたが90年代にサクラメントでやっていたThe Yah Mo’sはハードコア・パンクだったし、The Boulevard Park Trioはガレージ・パンクでした。そこからディスコやダンス・ミュージックへ興味の対象がガラッと変わったきっかけは何だったんでしょう?

ニック:サクラメントは孤立した街だから、人気のパンク・バンドはやって来ない。だから、自分たちなりにパンクをやっていたんだ。つまりは、自分たちが好きな他のスタイルの音楽を取り入れたりして、王道のパンクとはまた違ったパンクをやっていたんだよ。自分たち自身がパンクとして満足できる音楽というか。The Yah Mo’sは、確実にネイション・オブ・ユリシーズ(ソウルやフリージャズの影響も取り入れていたワシントンD.C.のハードコア・バンド)や、60年代のソウルから影響を受けていた。そこから、興味を持つ音楽がだんだん広がっていったんだ。60年代のソウルから70年代のファンクを発見して、そこから70年代のディスコへ飛び、今度はディスコからハウスへと広がり、それが広がり続けていった。ネイション・オブ・ユリシーズがそのきっかけを作ってくれたと言っていいと思うね。そこから始まったから。




―これは一度訊いてみたかったのですが、サウンド的に近くて元メンバーが加入してもいるLCDサウンドシステムについて、あなたはどう思っていましたか? 刺激されたところもあるでしょうし、ある意味ライバルでもあると思うのですが。

ニック:アーティストには常に競争相手やライバルがいる。でも、LCDサウンドシステムをライバルと呼ぶのはちょっと違うんじゃないかと思う。なぜなら、彼らは!!!をライバルと思ってないだろうから。だって、彼らの方が断然有名だからね。でも、同じ時期にニューヨークから出たバンドの中で、一番すごいのはやっぱり彼らだと思うよ。彼らはアーティストとして一貫性がある。彼らのようなバンドがいてくれることは、俺たちにとっても良いことなんだ。俺たちも負けてられない!と、やる気が出るからね。彼らがなんであそこまで成功してるかって、良い仕事をしているからに尽きる。それは俺にとってずっとインスピレーションであり続けているんだ。彼らはとにかくベストを尽くして、素晴らしいレコードを作り続けている。そういうレコードを聴くことは大切だし、俺は彼らのレコードが好きだし、逆に出来が悪ければがっかりすると思う。彼らは俺にとってライバルではあるけれど、ただのライバルじゃない。“才能溢れるライバル”なんだ。

―今まで、!!!をやめてしまおうかなと思ったことや、解散の危機を迎えたことはありますか? あるなら、いつ、どんなとき?

ニック:レコードを作るたびに思ってるよ(笑)。でも、レコードを3枚作ったあたりから、これは自分が一生覚え続ける感覚なんだろうなと悟ったから、その気持ちは自分にとって活動する上での一部になっている。フラストレーションって必ず感じるものだし、感じる必要があるんだと思う。より良い何かを作ろうとするからこそ生まれるものだからね。恋愛だってそうだろ? バンドもそれと同じ。続けるには良いことばかりじゃなく、乗り越えなければならないことも沢山出てくる。葛藤や奮闘はつきものだからね。だから、やめたいって思ったことは何度もあるよ(笑)。

―オリジナル・メンバー3人に新しいメンバーが加わってから、バンドのケミストリーもそれまでとは変わったのでは? しばらくライブを観られないままですが、今の!!!はどんな状態ですか?

ニック:メンバーが変わるたびに、むしろ彼らに変化をもたらしてほしいと思ってるからね。変わったというか、俺たちは常にケミストリーを変えたいと思ってる。そうすることで、音楽を新鮮に保つことができるから。今の!!!は、ラインナップは前回(2019年)のライブと同じ。でも他のプロデューサーと組んだり……ジョエルだってそうだけど、そうすることでケミストリーは変化していると思うし、それはレコードにもライブにも反映されていると思う。




2019年11月1日、渋谷O-EASTで開催された前回の来日公演にて(Photo by Kazumichi Kokei)

―あなたも今年で50歳ですね。体力的にも今までとはかなり変わってくると思うんですが、最近のMVを見ていると、これまでと変わらず短パンで踊りまくっていて安心しました。健康の維持のために、何か気を付けていることや、努力していることはありますか?

ニック:YouTubeを見ながらヨガはやってるよ。あれは結構効くんだ。あとは、自転車にたくさん乗ってる。ニューヨークはほぼ自転車で移動してるんだ。「Man On The Moon」のビデオに映ってる自転車で。あとはダンスだな。ダンスはお年寄りに良いって言われてるよな(笑)。自分で踊ってて、そうだろうなと思うよ(笑)。もっと年をとっても、ずっと踊っていたいね。

―「今現在の!!!というバンドを説明するキャッチフレーズを考えてください」と言われたら、あなたは何と答えますか?

ニック:アメリカの電池のブランドで、エナジャイザーってのがあるんだけどさ。アメリカで有名になったその電池のコマーシャルがあるんだけど、ドラムを叩くうさぎのネジ巻き人形が出て来て、その電池を使ってるから、ずっとドラムを叩き続けるんだ。で、そのキャッチフレーズが、“Still Going”なんだけど、!!!を表すキャッチフレーズはそれだと思う。9枚目にして未だに新鮮に感じられるレコードを作れているっていうのは、自分たちにとっても驚きなんだよね。“まだまだ続く”こそ、俺たちが目指していること。だから、この言葉に勝るものはないと思う。






!!!
『Let it Be Blue』
発売中
オリジナルTシャツ付セットも販売
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12382


!!!来日公演
2022年9月5日(月)SHIBUYA O-EAST
開場/開演: OPEN 18:00 / START 19:00
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12782

Local Green Festival’22
2022年9月3日(土)、9月4日(日)
横浜赤レンガ倉庫
詳細:https://localgreen.jp/

Translated by Miho Haraguchi

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