ジョニー・デップ裁判、ドメスティックバイオレンス(DV)被害者たちのリアルな声 米

「完璧な被害者」はいない

とりわけ今回の裁判で浮き彫りになったのは、虐待被害者が告発する場合、話を信じてもらうためにはある一定の厳しい基準を満たさなくてはならないという点だ。「同じことがまた繰り広げられるのを見るのは恐ろしかったですね。被害者として認めてもらうには、どれだけ“完璧な”被害者でなくてはならないか、また裁判で争われているわけですから。世間は虐待と戦う女性を見て、それを逆手にとり、どちらの側も同じように非があるという加害者の言い分に利用するんです」と、匿名被害者は言う。

ハードは完璧な被害者とは程遠い――裁判では少なくとも1度デップを殴ったことを認めたし、音源の中でもデップをなじり、小バカにしていた。だがNCADCのグレン氏によれば、元夫婦のセラピストが証言したように、夫婦間の出来事を「相互虐待」とみなす考え方は明らかに間違いで、家庭内暴力での力関係に関する専門家の意見を無視しているという。「そんなもの(相互虐待)はありません。主要加害者と主要被害者がいるだけです」と同氏は言う。「ありえるとすれば、被害者が自分の身を守るためにやるべきことをやっただけです……でも臨床医がそれを“相互虐待”と位置付けるのは非常に危険です」。今回の裁判がTV中継やライブストリーミングで数十万人の目にさらされ、毎日娯楽として消費されていたことで、評決後も引き続き被害が出るだろうと同氏は言う。「裁判所は何週間も前に止めさせられたのに」

他の家庭内暴力の専門家は、被害者の信用を落とす伝統的な手法――被害者に精神疾患の診断を下すなど――が全世界の前で繰り広げられるのを、恐怖の面もちで見つめていた。デップ側の証人として証言した臨床医で犯罪心理学者のシャノン・キャリー博士は、ハードを一度も診察したことがないにも関わらず、双極性人格障害と自己愛人格障害の診断を下した。だがこうした症状を身体的虐待と結びつけるのは正しくない。「イギリスやカナダの女性からもよく聞く話です。どの弁護士も同じ戦術を使ってきます――彼らは被害者をヒステリックで、金の亡者で、悪意に満ち、復讐に燃え、感情的にも不安定で、人格障害を抱えているとみなします」とタイラー博士は言う。「女性の信用を落とすやり方です」。デップ裁判の評決で、こうした戦術は法廷でますます定番化するだろうと同氏は言う。

今回の裁判で被害者は闇に迷い込み、虐待の痛々しい記憶だけでなく、その後の顛末も追体験する羽目になった――とりわけ加害者が逃げおおせた時の記憶を。グレン氏にとっては、デップが法廷の外で集まった女性ファンにファンサービスする映像が引き金だった。「投げキッスをしたり、車を停めて手を振ったり――裁判沙汰にしなければならないほど名誉を傷つけられたなら、それ相応の厳粛さと真摯な態度で行動するべきでしょう」と言い、デップの言動は「胸がムカムカする」と表現した。

Translated by Akiko Kato

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