サマーソニック総括 「失われた時間」からの復活、新しい時代へのメッセージ

 
The 1975とリナ・サワヤマが提示したもの

この日、筆者が最も楽しみにしていたのは、これが初来日公演となる、新潟生まれ、イギリス育ちのリナ・サワヤマのステージだ。開演前からMARINE STAGEの客席は並々ならぬ熱量に満ちていたが、美しく真っ赤に輝く衣装を身に纏ったリナの圧倒的な存在感、そして「Dynasty」の壮絶な歌声と圧巻のサウンドスケープを前に、スタジアム全体が一瞬にして彼女の世界へと変貌する。その後も、激しいハードコア・サウンドと共にマイクロアグレッションや(特に日本人女性に対する西洋男性からの)ステレオタイプの押し付けに対する怒りを爆発させる「STFU!」、マイノリティ(より具体的にはLGBTQ+コミュニティ)にとってのこの世、すなわち地獄で踊るためのダンス・チューンである「This Hell」など、メッセージとエネルギーが渾然一体となったハイブリッド・ポップの数々が、音源を遥かに超える熱量とともに次々と炸裂していく。


リナ・サワヤマ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

冒頭のMCにおける「他の人をジャッジしないで下さい。This is a safe zone.」という言葉に象徴される通り、リナはこの場に集まった一人ひとりを、圧倒的なパフォーマンスによって祝福していた。だが、彼女には、現代を代表するポップ・アイコンとして、この日本でパフォーマンスする上で言わなければならないことがあった。

「私はバイセクシュアルで、それを誇りに思っています。でも、日本で同性婚をしようとしたら、出来ないのです。何故かというと、日本では同性婚が禁止されているからです。G7の中でも唯一、一つだけ、一国だけ、そのprotection(保護)が無い国です。LGBTの差別を禁止する法律が無い国です。私は日本人であることを誇りに思っています。だけど、これはすごく恥ずかしいことです。私と私の友達、Chosen familyを受け入れて、平等な権利を持つべきだと思う人たちは、皆さん、私たちと、私たちのために戦ってください。LGBTの人たちは人間です。LGBTの人たちは日本人です。愛は愛。家族は家族です。一緒に戦ってください。よろしくお願いします」(筆者書き起こし、一部調整)


リナ・サワヤマ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


リナ・サワヤマ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

そう語り、“Hey girl, you are what I’ve been looking for,”(ねぇ、貴女をずっと探していたんだ)」と歌う「LUCID」、そして原曲以上にアンセミックな高揚感に溢れたレディー・ガガ「Free Woman (Rina Sawayama & Clarence Clarity Remix)」へと繋いで迎えた大団円は、間違いなくこの日最大のハイライトだろう。また、ライブ直後には幕張メッセ内でサイン会が実施され、貴重なコミュニケーションの機会を手にした多くのファンが、サインを貰う僅かな時間の中で懸命に本人への想いを伝えていた。絶え間なく激しい分断と争いが続く2022年の今、愛に満ちたそのパフォーマンスを実際にこの目で観れたこと、そして実際に会い、言葉を交わせたこと。その意味は果てしなく大きい。


The 1975(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

この日を締めくくるのは、来る新作『Being Funny In A Foreign Language』(邦題:外国語での言葉遊び、10月14日発売予定)のリリースを控え、新たな季節を迎えつつあるThe 1975だ。2013年にSONIC STAGEの(オープニングアクトを除いて)1番手として出演してから9年が経ち、今や本国のイギリスどころか世界を代表するロックバンドへと成長した彼らが、5度目の出演にして遂にヘッドライナーとしてサマソニの舞台に立つ。その時点で感慨深いものがあるのだが、実はこの日はバンドにとって約2年半ぶりとなるパフォーマンスでもあった。スタジアムを埋め尽くした観客の多さに驚き、感謝の気持ちを示しながら(フロントマンのマティいわく「今までのバンドの歩みの中でも一番クレイジーな出来事」。どうやら今回のステージを前に相当ナーバスになっていたようだ)、たっぷり90分に渡ってこれまでのキャリアを横断するグレイテスト・ヒッツが惜しげもなく披露されていく。


The 1975(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


The 1975(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

(筆者個人として)The 1975については、そのビジュアルやアルバムのタイトル、そしてまるで一人の登場人物の人生における風景をそのまま切り取ったかのような楽曲の数々から、どこかフィクショナルな、ある種の映画的な存在感を持っているように感じていたのだが、今回のステージにおける徹底的に白黒にこだわった演出や、まるでとあるバーで演奏しているかのようなバンドの佇まい、そしてどこか過剰にも思える、まるで「カメラに撮られていることを前提としている」かのようなマティの表情は、その印象をより強固なものへと変えた。今回のパフォーマンスは、もはや自分自身もその映画の一部分となったかと感じさせるほどの体験であり、その中心で(日本酒を飲みながら)危うさを感じさせるほど赤裸々に自らの感情を垂れ流していくマティの姿を見ていると、楽曲の中で語られる人物の風景を実際にこの目で見ているのではないかと錯覚してしまう。だが、形式こそキャッチーなポップ・ソングでありながら、限界まで鋭利に鳴らすそのバンド・サウンドに神経を刺激されていく内に、やがてその中にある感情と共に、空間全体のエネルギーが膨張していくことを実感していく。

終盤の「Love It If We Made It」「People」「I Always Wanna Die (Sometimes)」という流れは、まさにそのエネルギーがピークへと到達した瞬間であり、映写機そのものが爆発して壮絶な光を放ったかのような圧倒的な感覚がスタジアムを覆い尽くす。キャッチーで可愛らしい新曲「I’m in Love With You」の初披露といったサプライズもあったものの、何よりもそのパフォーマンスの成熟ぶりに驚かされる、まさに圧巻のヘッドライナー公演だった。

 
 
 
 

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