サマーソニック総括 「失われた時間」からの復活、新しい時代へのメッセージ

 
CL、ZICO、メーガン、ポスティの存在感

前述のSe So NeonやTOMORROW X TOGETHERに象徴される通り、今年のサマソニのラインナップは例年以上にアジアの音楽シーンを見せることに力を入れたものとなっている。その中でも目玉はやはり、2000年代から韓国の音楽シーンを支え続け、世界へと発信していったCL、そしてZICOというレジェンドの出演だろう。


CL(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


CL(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

DJがプレイする硬質なクラブ・サウンドとラグジュアリーな衣装によって完全に戦闘モードと化しながら、ダンサーと共に「Doctor Pepper」や「HELLO BITCHES」等のアンセム群を惜しみなく投下したCLのステージと、バックバンドを率いて(抜群のキレは保ちながら)自然体なパフォーマンスを披露し、時には観客と親密なコミュニケーションを取りながら、時にはスペシャルゲストとして登場したSKY-HI、Novel Core、BE:FIRST、Aile The Shotaと楽しみを分かち合いながら会場全体を盛り上げていったZICOのステージは、対称的な光景でありながらも、両者ともにキャリアに裏打ちされた圧巻のパフォーマンスを披露してくれた。


ZICO(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ZICO(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

初日のリナ・サワヤマと並んで、個人的に今回のサマソニにおける最大の目玉と考えていたのが、アメリカ出身で、今や世界を代表するフィメール・ラッパーとして知られるメーガン・ジー・スタリオンだ。大のアニメ好きとして知られ、日本に到着してからも某アニメの記念展を楽しむ姿をSNSにアップしていたメーガンだが、その想いが初来日公演となる今回のパフォーマンスに反映されないはずもなく、なんと某美少女戦士を彷彿とさせるセーラー服姿でMARINE STAGEに降臨。衣装には自身の得意技でもあるトゥワークをしっかりと見せられるように大胆なアレンジも施されており、この時点で観客の心をガッチリと掴んでいた。


メーガン・ジー・スタリオン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

前週に最新アルバム『Traumazine』をリリースした直後という最高のタイミングで迎えた今回のステージだが、そのセットリストはこれまでの作品群からバランス良く楽曲をピックアップした、まさにグレイテスト・ヒッツと呼ぶに相応しいもの。元々、トラップからクラシックなビートまで幅広いジャンルのトラックを縦横無尽に乗りこなすことが出来る圧倒的なラップ・スキルによってキャリアの土台を築き上げてきたメーガンだが、ライブでもその魅力を遺憾なく発揮し、キレのあるフロウによって軽々とスタジアムを掌握していく。「Body」や「WAP」といった大ヒット曲による盛り上がりは勿論のこと、ハウス調の「Her」やオールドスクールな質感の「Plan B」といった新曲群も絶妙なアクセントとなっており、勢いだけではない、一つの完成されたショーを見事に創り上げていた。勿論、ここぞというタイミングで披露され、その度に観客が熱狂するトゥワークを筆頭に、ダンサーと共に魅せるメーガン自身の身体性の高さもまた、ショーを構成する極めて重要な要素だ。


メーガン・ジー・スタリオン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


メーガン・ジー・スタリオン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

リナ・サワヤマ(そして多くの他の出演者)と同様に、メーガンもまた、その時代、そしてそこに生きる人々と向き合い、楽曲やパフォーマンスを通してメッセージを発信し続けてきたポップ・アイコンの一人だ。今回のステージでは自らを“Hot Girl Coach”と位置付け、MCでは会場に集まった“Hot Girl”へ向けて声をかけ続けており、ヘイターへと中指を立てる「What’s New」の前には、次のような言葉が語られた。

「愚かな男たちに呼びかけるために、少しだけ時間を使う。私たちの体についてどうするべきか言ってくる奴ら。私たちはそんなの好きじゃない。言われっぱなしになんかさせない。女性たちよ、私たちは私たちのために立ち上がるべき。ここにいる全ての女性たち、私の東京 hottiesたちよ、もし誰もあなたのことを美しいと言わなかったとしても、あなたは美しい。あなたはうまくやれてる。滅茶苦茶イケてる。あなたは強い。私はあなたに感謝するよ。だから、今からヘイターたちにメッセージを送ってやろう」(筆者訳)

この言葉に熱狂し、中指を立てながら楽曲に合わせて踊る観客の姿。この瞬間もまた、間違いなく今年のサマソニにおける最大のハイライトの一つだった。ラストは自身にとって大ブレイクのきっかけとなった「Savage」のビヨンセを交えたリミックス・バージョンを披露し、改めて彼女が世界を代表するポップ・アイコンであることを証明し、圧巻のパフォーマンスは幕を閉じた。


ポスト・マローン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

「失われた時間を埋め合わせる」という今年のサマソニにおいて、ポスト・マローンほどヘッドライナーに相応しい人物はいないかもしれない。2020年の『スーパーソニック』のラインナップが発表された時、筆者を含む多くの音楽ファンは、当時のメインストリームを完全に支配していた彼の大ヒット曲の数々を大会場で楽しめることを心待ちにしていたのだから。

そんな彼のステージは、前日のThe 1975の映像・照明などの凝りに凝ったステージと比較するとシンプルそのもの。カメラはパフォーマンス中の本人と、盛り上がる観客席を同じくらい映すという、あくまでフェスティバルを中継する役割として機能しており、照明も鮮やかではあるものの、特に凝った仕掛けが用意されているわけではない(時折、パイロが噴き上がる場面はあったが)。何より、ステージに立っているのは片手にビール入りのプラカップを持った、Tシャツ&短パンというカジュアルな出で立ちのポスト・マローンただ一人である。セットリストについても、ほぼ1曲ごとにMCを挟む(そしてビールを飲む)という構成となっており、言ってしまえば、決して一つのショーとして作り込まれたものではない。1曲目を飾った「Wow」では頭の上にコップを乗せておどけてみせ、その後のMCで自己紹介と共に「これからクソみたいな曲をやって滅茶苦茶になるぞ」と言ってしまうほどだ。だが、我々に必要だったのは、この、まるで親しい友達の家に遊びに行った時のような親密な空間だった。


ポスト・マローン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

トラップ・ビートなどのトレンドのサウンドに合わせて、シンプルな楽曲構成と徹底的に自らの声の魅力を最大限に発揮するポスト・マローンの音楽性は、この時代における最もキャッチーな音楽であり、たとえ意識していなくとも、その生活を彩る身近な存在となっていた。だからこそ、この親密な距離感こそが、彼の音楽を味わう上でのベストな環境なのだ。だが、それすらもこの約3年の間は手にすることが出来なかった。曲を作った時の思い出話や、久しぶりにこうした場を楽しむことが出来ることへの感慨深さを語りながら、「Better Now」や「Circles」といった大ヒット曲を惜しみなく披露していく彼のステージは、まさに「かつてあったはずのハウス・パーティー」であるかのように感じられたのだ。

最後に披露された「Congratulations」では、昔から抱いていた夢を遂に実現させ、成功を手にした喜びを歌うリリックとシンクロするかのように、巨大な花火が次々と会場の上空に打ち上げられていく。それはまさに、約3年ぶりに復活したサマーソニック、そしてそれを再び楽しむことが出来た私たちに対する祝福以外の何物でもなかった。これ以上に完璧な幕切れが果たしてあるだろうか。「Yeah, we made it.」。そう、私たちはやってのけたのだ。


ポスト・マローン(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

興味深いのは、ヘッドライナーを務めたThe 1975とポスト・マローンがそれぞれ、MCの中で「実はこの日のステージを不安に感じていた」と話し、スタジアムを埋め尽くした観客に向けて深い感謝の想いを伝えていたことである。思えば、今の状況はアーティスト側にとっても「失われた時間を埋め合わせる」ものなのだろう。約3年という時間を経て、音楽シーンも、人々の生活も、それぞれが大きな変化を経験して、それでも再びあの頃と同じように楽しむことが出来るのか。そんな不安を、アーティスト側も観客側も抱えながら会場に集まり、徐々に感覚を掴んでいきながら、お互いに分かり合っていったのだ。

だが、そんな久しぶりの再会を喜んでいる間も、時代の変化が止まることはない。いかなるジャンルであろうと音楽は時代を映す鏡であり、そこから逃げることはできない。むしろ、時代と、その中で生きる人々と向き合った上で、どのようなメッセージを発するのか。その選択はこれまで以上に大衆の注目を集め、アーティストの持つ魅力や表現の強度へと直結していく。それは、本文中で引用したリナ・サワヤマやメーガン・ジー・スタリオンのように、明確なスピーチとしての形を取るとも限らない(余談だが、これらの言葉についても、なるべく正確に受け取られるべきであるため、可能であれば実際に映像を観ていただきたい。今後、サマソニが放送されるタイミングでこのシーンが放映されることを願っている)。

例えば、セイレム・イリースが披露した「crypto ₿oy」には「NFTの動向ばかりをチェックするよりも、ロー対ウェイド事件のように他に議論するべきことがある」というメッセージが込められており、実際にNFTを制作し、その売上がThe Center for Reproductive Rights(生殖権と人権のために戦う非営利団体)に贈られるという背景を持った楽曲だ。また、ヤングブラッドはかねてよりパンセクシュアルを公言しており、ライブの冒頭で見せた男性ギタリストへのキスは、それがたとえLGBTQ+に関わる話題や情報を制限する法律を成立させた国であろうと構わず(むしろ敢えて)披露されるという、自身のスタンスを表明するためのパフォーマンスである。そして、マネスキンも「我々は家父長制の奴隷だ」と言い放つ「STATO DI NATURA」という楽曲を筆頭に、現代社会を「らしさ」で縛る規範に中指を立てながら活動を続けており、そのスタンスはステージ上で見せるファッション等にも反映されていた。

何より、今回のサマソニの出演ラインナップ自体が、The 1975の「ジェンダーバランスが適正なフェスティバルにのみ出演する」という要望の元に決められていったものである。これらはあくまでほんの一例であり、直接耳にした言葉だけではなく、この2日間で目にしたあらゆる光景に、様々なメッセージが含まれている。

冒頭で書いた通り、サマーソニックは国内外の様々なポップ・カルチャーと、それを愛する様々な人々が一つの場所に合流する交差点だ。だからこそ、この場所から発信されるメッセージは、フィルターバブルのような障壁を超えて、様々な人々へと広く波及していく。自ら築いた壁を超えて届く様々なメッセージと、それを目にした時に抱く様々な感情。それもまた、この約3年の間に失ってしまっていたものなのだろう。そしてこれからは、その感情を元に、私たち自身が新たな行動を起こしていく時間となる。

【写真を見る 全143点】サマーソニック ライブ写真まとめ(記事未掲載カット多数)

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