サマーソニック総括 「失われた時間」からの復活、新しい時代へのメッセージ

 
2日目・8月21日(日)

金曜夜のソニックマニアから参加していたということもあり、ここまでの時点で凄まじい情報量(と移動による疲労)に圧倒されてしまっているのだが、せっかくのサマソニなのだから休むわけにはいかない(とはいえ、初日深夜のミッドナイトソニックは断念してしまったのだが……)。東京2日目も見どころは満載で、結果として初日よりも会場中を走り回ることになった。


セイレム・イリース(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


セイレム・イリース(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

昼間のSONIC STAGEに登場したセイレム・イリースは、某巨大企業に対する皮肉と上手くいかない恋愛模様を重ね合わせた「Mad at Disney」がTikTokで絶大なバイナル・ヒットとなった、今注目のカリフォルニア生まれのシンガーソングライターだ。今回はバンドを率いての出演だったのだが、嬉しいサプライズだったのは、そのバンドがゴリッゴリの激しいロック・サウンドを鳴らしていたこと。特に、NFTや仮想通貨の動向ばかりを気にする男子を皮肉った「crypto ₿oy」におけるオルタナティブ・ロックの爆発力は抜群で、チャーミングな歌声やパフォーマンスと相まって、ポップで痛快で自由なステージを繰り広げてくれた。

また、ライブの後半で披露した「PS5」では、なんと楽曲で共演しているTOMORROW X TOGETHERからヨンジュンとテヒョンが登場。この数時間後にメッセ側の最大規模ステージであるMOUNTAIN STAGEで一部入場規制となるほどの圧倒的なパフォーマンスを披露した彼らだが、ここでは仲の良いセイレムと一緒ということで、どこかリラックスしたムードだ。3人で仲良くステージを歩きながら、美しい歌声と可愛らしいダンスで観客を魅了していた。

セイレムに限らず、今のメインストリームの音楽シーンを見ていて感じるのは、もはや「ジャンル」というのはトレンドに左右されるものではなく、表現する上での単なる選択肢に過ぎず、受け手側もそれだけで何かをジャッジすることは無いということ。それは昼間のメッセを駆け回りながら観た、Se So Neon(セソニョン)とイージー・ライフのステージでも強く実感出来るものだった。


Se So Neon(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


Se So Neon(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

2017年にデビューした韓国のSe So Neonは、3ピースという最小限の編成ながら、ブルージーなロックからニュー・ウェーブ、さらにはシューゲイザーまで幅広いバンド・サウンドを自由自在に披露し、ギターを弾くことの喜びを全身で表現しているかのようなギター・ボーカルのファン・ソユンの快活なパフォーマンスと、常に一定の心地よい温度感を保ち続けるリズム隊が織り成す絶妙なグルーヴで、(急遽の出演であったにも関わらず)見事に観客をその世界へと引き込んでいく。


イージー・ライフ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


イージー・ライフ(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

同じく2017年デビュー組でUK出身のイージー・ライフは、バンド編成でありながらもヒップホップやR&B、レゲエなど幅広いジャンルの音楽の影響をそのまま溶かし込んだかのような、すべてを自らのバイブスに身を委ねるかのような楽曲とパフォーマンスで、まるで自宅で見る白昼夢のような音像が巨大なMOUNTAIN STAGEを丸ごと飲み込んでしまう。どちらのバンドも、今までにありそうでなかった、今の時代だからこそ味わえるであろう、ユニークで、自由で、何より楽しさに満ちた瞬間に溢れていた。


ヤングブラッド(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ヤングブラッド(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

この日、そんな自由なムードを誰よりも体現していたのが、今回が初来日公演となるUK出身のヤングブラッドだろう。近年のポップ・パンク・リバイバルの系譜に位置するその音楽性は、爽快でエモーショナルでキャッチーなものであり、真っ昼間のMARINE STAGEと相性が悪いわけがない。だが、彼の本質は、自らを特定の型にはめず、あらゆる垣根を破壊したクレイジーなショーをすることにある。というわけで、冒頭の「Strawberry Lipstick」の時点でリミッターは解除。巨大なステージを縦横無尽に駆け巡り、幾度となく絶叫を繰り返し、間奏では感情の赴くままにギタリストにキスをし、時にはチャーミングな表情やセクシーな動きを披露し、一方で疲れている観客の姿を見つけるとすぐに手を差し伸べるという優しさを見せながら、徹底的にあらゆる方向から観客の感情を昂ぶらせていく。以降もその勢いは全く止まることなく、「Parents」や「The Funeral」といった代表曲の数々を披露していく内に、やがてスタジアムにはカオスで一体感が生まれていった。

そんな彼のパフォーマンスを見ていると、(彼自身も大きな影響を受けたと語る)マイ・ケミカル・ロマンスのジェラルド・ウェイの姿が重なって見えた。ジェラルドがそれまでのマッチョイズム的なロック・シーンの常識を打ち砕き、多くの社会に馴染むことが出来ずにいる人々を救済したように、ヤングブラッドは(それ以上に多くの壁を破壊しながら)一人でも多くの人々が「ここにいてもいいんだ」と思える空間を作り上げていく。ポップ・パンクリバイバルのムーブメントにおける、単なるノスタルジーや音楽性の模倣ではない、その時代から受け継がれた意思そのものの継承を強く感じられる、クレイジーでありながらも感動的な光景がそこにはあった。

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE