スナーキー・パピーが語る原点回帰、21世紀のアメリカ音楽を塗り替えたダラスの重要性

RCウィリアムスとバーナード・ライトから学んだこと

―以前、ジェイソン“JT”トーマス(スナーキー・パピーのドラマー)から「2006年頃に自分とマイケル・リーグ、バーナード・ライトがチャーチで出会った」という話を聞かせてもらいました。当時のエピソードについて教えてください。

マイケル:その時に僕の人生が変わったんだ。フィリップ・ラセターというトランペット奏者がいて、彼はブラック・チャーチの音楽監督だった。のちにNPG Hornz(プリンスのホーン隊)のメンバーになり、プリンスのアレンジャーも務めた人物だ。そのフィリップが僕らのセッションを見に来てくれて、それで僕らを気に入ってチャーチに誘ってくれた。そこでバーナード・ライト、JT、キース・アンダーソン、つまりRHファクターのメンバーと出会ったんだ。そこからバーナードがいろんなセッションに連れて行ってくれるようになった。そのなかのひとつに、エリカ・バドゥのバンドで音楽監督を務めていたRCウィリアムスが、当時始めたばかりの新しいジャム・セッションがあった。そこに混ぜてもらうようになって、そこでロバート・スパット・シーライトやショーン・マーティンとも出会い、そこから今に至るんだ。ちなみに、RCウィリアムス主宰のセッションは今も続いていて、もう15年以上になるんじゃないかな。

―「Bet」はそのRCウィリアムスと、彼が率いるRC&ザ・グリッツに捧げた曲ですよね。

マイケル:RCがダラスにもたらした貢献は本当に大きいんだ。彼に影響を受けたミュージシャンは数えきれないと思う。さっきも話したように、僕はバーナードに連れられて、RCがやっていたジャムセッションに参加するようになった。その今も続いているジャムセッション「ザ・グリッツ」の初代ベース・プレイヤーを、僕は2年くらい担当していたんだ。僕にとって、そこで多くのミュージシャンと知り合えたのは大きかったし、そもそもあんなスペースを作ってくれたことの貢献は計り知れない。地元の人たちが支え合い、一緒に音楽を奏でて、一緒に音楽を聴くってことはすごく大事なんだ。そういうコミュニティを作ってくれて、それを維持していること。僕に様々な機会を与えてくれたことにものすごく感謝している。




―今回の『Empire Central』には、バーナード・ライトが生前最後に残した録音も収録されています。まずはバーナードとダラスの関係について聞かせてもらえますか?

マイケル:バーナードはNY出身なんだけど、彼の妻の地元がテキサスだったから、20年くらい前にテキサスに引っ越してきたんだ。

―あなたにとってバーナードはどんな存在ですか?

マイケル:(じっくり時間を置いて考えこむ)うーん、いろいろあり過ぎて語るのが難しいなぁ……。彼は信じられないほどテイストフル(趣味がいい)だ。見せびらかすように音を鳴らすことは決してなかった。音楽第一主義者なんだ。そんな彼がステージに立っている姿を見ると、神々しいというか、神聖な何かを見ているような気分になる。その一方で、カメレオンのようにその時々のモーメントに完全にフィットするものを合わせてきて、劇的に変化させてしまうこともある。どんなに周りに合わせても彼らしさは失われない。彼はコードを弾いても、ソロを弾いても、他の誰からも聴いたことがないようなフレージングだなっていつも思わされる。とにかく僕は影響を受けすぎていて、キリがないくらい話せるんだけど、パッと今浮かんだのはこの辺りだね。


バーナード・ライト(写真左):マーカス・ミラーなどが参加したジャマイカン・キャッツの一員で、ヒップホップに数多くサンプリングされてきたことでも知られるキーボーディスト/R&Bシンガー。2022年5月19日に58歳で逝去。(Photo by Brian Friedman

―今回、バーナードが参加した「Take It!」は音楽的にも素晴らしいうえに、ライブ映像も美しく、バーナードの手元までしっかり映っていることも含めて貴重だと思います。この曲にもいろんなストーリーがあると思いますが、それを聞かせてもらえますか?

マイケル:「Take It!」はボビー・スパークスのMyspaceで2004年くらいからずっと公開されていた曲だ。僕はずっとこの曲が好きでね。そこからリリースされることはなく、ずっとMyspaceだけで聴ける曲だったんだけど、2019年にボビー・スパークスが発表した『Schizophrenia - The Yang Project』にようやく収録されたんだ。僕個人にとってものすごく大切な曲だし、出会ってから20年近くの時を経てリリースされた曲だし、スナーキー・パピーの歴史を踏まえても重要な曲だったから、自分たちのバージョンをやりたいなって思ったんだ。それにこの曲でバーナードに参加してもらえば、ダラスへのリスペクトをわかりやすく伝えられるし、スナーキー・パピーとダラスの関係を示すのにぴったりだと思った。シンプルな曲だから、レコーディング前のサウンドチェックの時に軽く合わせてみただけで演奏したのがあのバージョンなんだけど、すごくいい出来になったと思ってる。

それに、バーナードはものすごいインパクトを与えてきたけど、彼をきちんと映した記録がほとんど残っていなかった。僕らはサウンド的にもかつてないくらいに素晴らしいものをキャプチャーすることができたし、もちろん映像的にも素晴らしいものにすることができた。これを残せたことはラッキーだったし、本当に嬉しく思ってる。みんなに見てもらいたいよね。



Translated by Kazumi Someya

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