スナーキー・パピーが語る原点回帰、21世紀のアメリカ音楽を塗り替えたダラスの重要性

RHファクター、カーク・フランクリンとの関係

―そのボビー・スパークスによる「Take It!」の原曲には、ロイ・ハーグローヴが参加していました。今作にはロイに捧げた曲「Cliroy」も収録されています。ダラスにとってロイはどんな存在ですか?

マイケル:ロイはバーナードと同じカテゴリーだといえるんじゃないかな。それにJTやボビーが、ロイと長い間活動していたこともあって、スナーキー・パピーとRHファクターは姉妹バンドみたいな関係ともいえると思うんだよね。バーナードと似ているのは、とにかく音楽に対してリスペクトを持っていること。そして、誰とも違う演奏ができるし、誰とも違うフレージングをするんだ。ロイと共演したことが何度かあるけど、一緒に演奏していると自分の腕が上がったんじゃないかと思えるような素晴らしい演奏になるんだ。ナチュラルで、エゴがなくて、ソウルフルで驚異的なミュージシャンだったよね。

―RHファクターは2003年の代表作『Hard Groove』がNYのエレクトリック・レディで録音されたこともあり、ソウルクエリアンズの文脈で語られることが多いですが、あなたも話しているようにダラスのミュージシャンたちの貢献も大きいわけですよね。

マイケル:RHファクターのオリジナル・メンバーはダラスの音楽家たちだと思うよ。ダラスで始まっているはずなんだ、しかも、ボビー・スパークスの家でね。ボビーの家にロイが来て、そこにバーナード・ライト、ジェイソン・トーマス、キース・アンダーソン、トッド・パースノウを招き、そこでやっていた音楽がそのままバンドになったんだよ。それからNYに移って、NYのミュージシャンが加わったという流れだと僕は聞いてる。もともと最初のベーシストはチャック・スミスで、彼はダラスのミュージシャンだった。そもそもオリジナル・メンバーの中には、レコーディングには参加していないミュージシャンもいたらしいからね。そんな経緯もスナーキー・パピーとそっくりだと思うんだ。僕らはノーステキサス大学から始まって、ダラスに住んでいたミュージシャンたちと一緒にグループを作り、そこからNYに行くことになって、そこで知り合った様々な地域のメンバーが加わって……という流れだから。


2002年、ブッカー・T・ワシントン高校の卒業生であるロイ・ハーグローヴ、ボビー・スパークス、ショーン・マーティン、チャック・スミスが参加したライブの映像

―すでに何度も名前が出ていますが、RHファクターとスナーキー・パピーに貢献してきたボビー・スパークスはどんな存在ですか?

マイケル:スナーキー・パピーが一番最初にコラボレーションしたダラスのミュージシャンがボビーだった。彼はとにかくファンキーなんだ。僕らは「世界一ファンキーな人間」って呼んでる(笑)。ボビーは何を弾いてもフィール・グッドなんだよね。彼は音楽に憑りつかれている人間で、音楽をとんでもなく聴いていて、音楽の歴史にかなり深く精通している。僕はその部分でもボビーをリスペクトしている。一方で、かなりレイドバックした人でもあって、一緒にいて心地いいし、ボビーがいれば面倒も起きない。とにかく優しい人なんだ。

―アルバム冒頭を飾る「Keep it on Your Mind」は、ダラス出身のアリサ・ピープルズとキャヴィン・ヤーブロウによるデュオ、ヤーブロウ&ザ・ピープルズに着想を得ているそうですね。

マイケル:彼らのヒット曲「Don’t Stop The Music」がずっと好きでね。その感じはスナーキー・パピーの音楽にもこっそり入れてきた。さっき話に出たJTは長い間、彼らの後ろでドラムを叩いていたんだ。というか、彼らの紹介でJTは今の妻と知り合っている(笑)。僕が(ヤーブロウ&ザ・ピープルズに)初めて会ったのは今回のアルバムのレコーディング当日の夜で、彼らはライブ・レコーディングの様子を観てくれた。自分のベーシストとしてのグルーヴは彼らの音楽から大きな影響を受けていたから、本人たちに観てもらえたのはすごくうれしかったよ。



―「RL’s」はJTをフィーチャーした曲ですが、彼についても聞かせてもらえますか?

マイケル:テキサスで最もリスペクトされているドラマーのひとりだと思う。そして、スナーキー・パピーのサウンドの進化に貢献している。パワーもあるけど、洗練されているところもあって、(メンバーの演奏を)しっかり聞いたりインタラクションもきちんとしている。爆発的に叩いても、抑制された叩き方をしても最高なんだ。僕はシャッフルを叩くときの彼のフィーリングが大好きでね。上手いドラマーはたくさんいるけど、シャッフルならではのフィーリングを出せるってことならJTをおいて他にはいない。ちなみに「RL’s」という曲名は、僕らが大好きなダラスのライブハウス「RL’s Blues Palace」に由来している。僕はJTに連れて行ってもらったんだ。

―今回のアルバムには不参加ですが、元メンバーのロバート・スパット・シーライトもダラスにとって大きな存在ですよね。

マイケル:そうだね。スナーキー・パピーの歴史においても重要な存在だし、ダラスのシーンにとっても同様。地元のミュージシャンだけじゃなくて、ダラスの外から来てくれたミュージシャンに関しても手を休めることなくサポートして、ずっとコミュニティを支え続けている。あと、彼の一家はダラスのシーンにおける王室みたいなファミリーなんだよ。それに、スパットはカーク・フランクリンとも活動していたよね。

―そして、カーク・フランクリンもダラスにとって重要ですよね。

マイケル:今日のアメリカン・ゴスペルにおけるもっとも有名な人物で、つまりゴスペルの世界でもっとも有名なアーティストだと思う。ショーン・マーティン、RC、ボビー、スパットは、カークと共に子供の頃から一緒に育ってきた背景があって、そのまま一緒に音楽もやってきた。カークがユニークなのは、様々なジャンルをミックスさせることで現在のゴスペルのスタイルを築いたところ。ソングライターとしても優れていて、「ゴスペルのことは知らないけど、カーク・フランクリンの曲は好き」って人も結構いるくらいだ。

ショーン・マーティンはずっとカーク・フランクリンの音楽監督をやっているし、ボビー・スパークスも彼をプロデュースしている。実は僕自身もエレクトリック・ギターで彼のバンドに参加したことがある。カークが大きなコミュニティを作ったことは、ダラスにとっても重要なことだったと思う。そこにはRHファクターのメンバーも、スナーキー・パピーのメンバーも含まれるわけだからね。







スナーキー・パピー
『Empire Central』
2022年9月28日 日本先行発売
2022年9月30日 配信リリース
詳細:http://www.coreport.jp/catalog/rpoz-10078_9.html

Translated by Kazumi Someya

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE