WurtSが語る、秘密のベールに包まれた「研究家×音楽家」の裏側

否定・反抗ではなく「順応」が武器

―いわゆる普通のアーティスト活動の仕方ではない、そういうスタイルを理想とするのはどういった想いがあるからだと言えますか?

WurtS WurtSは「研究家×音楽家」としてコロナ禍にできたもので、WurtSの活動自体が僕のひとつのデモバージョンみたいな感じで。僕はもっと別のアーティストもやってみたいし、裏方みたいなこともやってみたいと思っているので。WurtSが完成したら、もう他の人に譲りたいというか。そんなにWurtSに関して愛着がないからこそできるのかなとも思います。WurtSは最終的にコミュニティにして、いろんな人たちが集まってWurtSというものを作り上げていくようにしたい。だからWurtSは「デモ運動のひとつ」みたいに言ってます。

―ご自身の中では、他にやりたい表現がすでにあったりするんですか。

WurtS そうですね。もっと「こういう音楽作りたい」とか、「こういうアーティストを作りたい」とか、どちらかというと裏方目線で思い描いているものはあります。シリーズ企画がそれにちょっと繋がっていて、新しいアーティストをそのシリーズの中で出してみたいなと。ストーリーの中でアーティストが出てきて、そのアーティストがデビューするとか。『アベンジャーズ』感覚というか(笑)。

―マーベルシリーズを描いている感覚ということですよね。それらの連作で表現したいメッセージや体現したいカルチャーというものは、具体的に見えているんですか?

WurtS 僕はマイノリティが集まるコミュニティを作りたいなと思っていて。僕の中では全員マイノリティだと思っているんですけど。何かに対しては絶対自分の中の価値観があるから。最終的にはマイノリティたちが集まって、音楽活動や表現活動をしたいなと。僕、アーティストが神様みたいに扱われるのが好きじゃなくて。対等だと思っているし、誰しもが言葉を言えるような場所を作れるといいのかなと思ってます。だからWurtSは最終的にみんなが発言できるようなコミュニティになればいいなって。

―The 1975の2ndアルバムは着飾ってなくて内面が見えるから好き、という話をしてくれましたが、中の人が変われば音楽に表れる内面性も変化しますよね。現状、WurtSの作品やこのEPの楽曲には自身の内面はあまり出てないという感覚ですか。

WurtS 今はいろんな自分を試している感じというか。WurtSでやりたいのは、信頼してもらえるWurtSブランドを作ることで。「このアーティストはWurtSがやってるから安心だな」とか、そういう面で今WurtSを育てている感覚です。だからいろんなものを試している最中なのかなと思います。

―どうしたって歌詞には内面が滲み出るものであると思うからこそ、具体的に曲についても質問をさせてください。「コズミック」はどんなところから着想を得てこの曲を綴っていきましたか?

WurtS 「コズミック」は「Nothing Phone (1)」とのタイアップで、「ポストモダンの讃美歌」がテーマでした。機械・科学と宗教って、対立しているイメージがあるというか。これは本で読んだことなんですけど、神様がいるということを信じながら生きていたのに機械や科学の発明をしてしまうと「やっぱり神様はいなかったんだ」という証明になってしまう。今はそういう時代なのかなと思ってるんですけど、実は違うんだよ、ということを歌詞にしてます。その本に書いてあったのは、人間が空を飛べるようになったりどんどん進化したりしているのは、神様を超越しているのではなくて、神様はいるという証明がしたいための行動なんだと。それがすごく刺さったというか。僕は結構冷めているタイプなので、そういうのを見るとアガるんです。



―The 1975のニューアルバムはポストモダンへの批評がひとつの軸としてあって、その中で愛の在り方を改めて問いかけるような表現がありましたよね。

WurtS 僕は、機械に反対を掲げるのではなく、逆に機械というものを肯定することが大事なのかなと思っていて。やっぱり「共存」というのがテーマなのかなと。それが「Nothing Phone (1)」ともマッチしました。

―では、「SPACESHIP」はいかがでしょう。

WurtS これはNHKの『パラスポーツアニメ』に書き下ろした曲で。ロックでかっこよく見せるアプローチは去年やったので、今年は「Talking Box (Dirty Pop Remix)」を推し曲にしたくてEDM的なアプローチの曲をどんどん出していきたいと思っていたときにコラボの依頼をいただいて、スポーツとEDMってあまり日本で見たことないなと思いながら作りました。歌詞に関してはノアの方舟をテーマにして、そこに向かって進んでいく感じ。WurtSの映画・エンターテイメント的な世界観と、スポーツを合わせられる歌詞にしました。



―ノアの方舟は『007/ムーンレイカー』にも通ずるテーマで、「SPACESHIP」の歌詞からはまさに『007/ムーンレイカー』のストーリーが浮かんできます。選ばれし者以外の人間や地球自体を一掃する、といったテーマ性においてWurtSさんはどういう考えを持ってますか?

WurtS 僕は何が正しいのかとかあんまりわからなくて、何でも肯定しようみたいなスタイルですね。自分から正解を言うような歌詞はあんまり作っていなくて、考えられる余地がある歌詞を作るようにしてます。

―そうやって否定・反抗ではなくいろんなことを肯定していこう、という価値観の背景には何があるんだと思いますか。

WurtS 逆張りの反抗なのかもしれないですね。みんなが反抗してるんだったら、じゃあ僕は順応していこう、みたいな。それが一番尖がってるのかもしれないです。

―今、特にZ世代は意識を高く持って社会問題と向き合う行動が求められていて、それに疲弊するようなムードも出てきている中で、同世代に対して次のスタンスを提案しているかのようにも思いました。

WurtS 外枠は反抗の塊のように見せているんですけど、実はそうではないという感じがあえての反抗なのかなと。逆の逆をつく感じがWurtSなのかなと思ってます。

―今作からEMIとタッグを組んでのリリースとなりますよね。すでに楽曲の広がりを十分見せている中でも、今日話してくれたWurtSさんの構想を実現していく上でメジャーレーベルと契約しようと思ったのは、どういった理由が大きかったですか。

WurtS やっぱり一番大きいのは、もっとWurtSを知ってもらいたい、信頼を深めたいということ。自分ではできる限界があったので、メジャーと組むことでより多くの人に発信してもらって、より信頼度を勝ち取りたいなと。やりたいことを考えると予算も足りなかったりしたので、そういう部分も可能にできるかなと。コロナがなかったら音楽活動もしてなかったですし、留学してまた別のアプローチのことをしていたと思うんですけど、音楽を始めたことによって、その一歩先でやりたかったことを今できているような感じがしています。

<INFORMATION>


WurtS  New EP『MOONRAKER』

1. Talking Box (Dirty Pop Remix)
2. コズミック
3. SWAM
4. ふたり計画
5. SPACESHIP
6. MOONRAKER

Streaming / Download 
配信中
https://lnk.to/WtS_moonraker

CD
発売中
・初回生産限定盤(デジパック仕様)/ UPCH-29447 ¥5,280(税込)
・通常盤 / UPCH-20637 ¥2,200(税込)
https://lnk.to/Ws_MR_PHY

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