W杯開幕、カタール政府が隠す移民労働者たちの死と窮状「これは現代の奴隷制度だ」

カタール政府は強制労働を否定

マンジュ・デヴィさんは高利貸しに頭を下げ――土下座して高利貸しの足をさすりながら――亡き夫の1万ドルの借金を免除してくれるよう懇願したという。年36%の金利で金を借りたおかげで、夫のクリパル・マンダルさんは南ネパールの田舎を出て、屋内設備会社で働き、推定2200億ドルのワールドカップのインフラ整備プロジェクトに関わることができた――クリパルさんの兄弟の話では、プロジェクトには8つあるスタジアムの1つも含まれていたそうだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチから提供されたインタビューの翻訳原稿によれば、現在一家は餓死寸前だという。

マンダルさんの妻がヒューマン・ライツ・ウォッチに語った話では、今年2月に電話した時マンダルさんは疲労困憊しているようだった。それまでマンダルさんは毎月150ドルを仕送りしていたが、カタールでの生活が10年を超えても、渡航費用で借りた金を返済できずにいた。その翌日、マンダルさんは心臓発作を起こして死亡したとみられるが、遺族の話では、カタール政府はマンダルさんの死を「労務とは無関係」とみなしたという。つまり、政府は遺族に対して補償の義務を負わない、ということだ。レガシー委員会では2万ドル以上の生命保険を労働者に提供するよう建設業者に推奨していたが、義務づけてはいなかった。マンダルさんの兄弟によれば、会社側は給与の支払いを15日先延ばしにしていたそうだ。「兄には何の問題もなかったのに」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの翻訳原稿に兄弟の発言が記載されている。「助けてくれる人は誰もいませんでした」

昨年ガーディアン紙に掲載された分析記事によると、2010年にFIFAがワールドカップ開催地をカタールに決定して以降、10年間で6500人以上の移民労働者が現地で亡くなっている。カタール政府はこの数字を「とんでもない誤り」だとし、一般的な死亡率に比例しているとの主張を展開している。また2018年に国連機関を介して制定した衛生安全改革法――猛暑期間中は日中の作業を禁止する、栄養対策を徹底するなど――を引き合いに出し、「外国人労働者」全体の死亡率は減少しているとも主張している。

だが監視団体はこれまで以上にいきり立ち、カタール政府は検死解剖や死亡補償や改革推進をおろそかにし、意図的に移住者の「労災」死亡件数をぼやかしていると主張している。アムネスティ・インターナショナルがまとめたデータによると、2016年にカタール政府が集計した非カタール国民の原因不明の死亡件数は劇的に減少し、これに呼応するかのように、循環器系の死亡件数が増加している。「ふざけてますよ、心拍停止で呼吸が止まっても何の意味もないんですから」と、人権調査団体FairSquareのニコラス・マクジーハン主任は言う。湾岸諸国の移民労働者の権利に関して、おそらく右に出る者はいないと目される専門家だ。「こうした死亡件数について何も知らないことを、政府は積極的に隠蔽しています」

アムネスティ・インターナショナルは、原因不明の死と自然死との間に開きがあることをカタール政府職員に問いただしたが、明確な答えはいまだ得られていない。ヒューマン・ライツ・ウォッチで国際活動ディレクターを務めるミンキー・ウォーデン氏は、先月カタールで行われた労働省職員との公開討論会で、「労務とは無関係」の死亡件数が増えていることを話題にしたが、取り合ってもらえなかった。「カタール政府が仕組んだ、巧妙な偽装工作です。我が国の自殺率や労働者の死亡件数は北欧と変わらない、と言っていますが、とんでもない嘘です」と、ウォールデン氏はローリングストーン誌に語った。「2200億ドル相当のスタジアムやインフラを建設していなければ、こんな数字にはならなかったはずです――ある種のプロパガンダですよ」

「答えを知りたくない政府は、調査すらしませんでした」とウォールデン氏は続けた。「問題を抱えていることを知りたがらない。これこそが問題です」

Translated by Akiko Kato

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