W杯開幕、カタール政府が隠す移民労働者たちの死と窮状「これは現代の奴隷制度だ」

憧れの選手たちが声を上げてくれることを願っている

ワールドカップ建設作業員の苦情は、本来であればカタールの運営レガシー最高委員会にあげられるはずだった。一部の人権団体スタッフは同委員会をオリンピック大会組織委員会に例えるが、あくまでも名目に過ぎない。国際建設林業労働組合連盟(BWI)が2016年に最高委員会から現地視察を請け負った際、同連盟の独立オブザーバーは一安心だった。カタールの主催者側には作業員の苦情を記録し、危険な建設現場は閉鎖する権利を有していたためだ――労働組合の結成は違法とされる国ならではだ。だが後に、カタール労働省には搾取的な業種に改革を迫るほどの政治的意思はなく、移民労働者のためのコミュニティセンター開設にも手を貸さなかったことが判明した(カタール広報部にコメントを求めたが返答はなかった。最高委員会は調査結果に異を唱え、Equidemに声明を送り、委員会の取り締まり活動で450件以上の違反が報告され、270社以上の業者が監視対象に挙がり、70社以上が廃業し、7社がブラックリストに載ったと述べた。FIFAはローリングストーン誌に宛てた声明で、BWIの定期的な査察と労働者の健康と安全に関するFIFAプログラムは「世界最高レベル」だと述べた)。

これらはスタジアムが完成する前の話だ。だが、恐ろしい話はまだ続く。労働者の雇用規約や賃金未払い、生活環境、雇用主による身体暴力や言葉の暴力、表現の自由を追跡するNPO団体Human Rights Resource Centreはローリングストーン誌の取材に応え、2022年だけでカタール国内で強制労働の疑いが133件も報告されていると語った。この夏にはBWIが先進国のサッカー選手と移民労働者を引き合わせ、このような労働環境を直に聞いてもらった。だが、FIFAのトップ2は「サッカーに集中」するよう呼びかける書簡を出場32カ国に送った。今年に入ってからドーハに拠点を移したFIFAのジャンニ・インファンティーノ会長兼事務局長も、「現存するあらゆるイデオロギー抗争や政治抗争いにサッカーを巻き込まないでください」と出場国に訴えた。

世界の名だたるサッカー選手たちは対抗手段として、自分たちの影響力を利用して一瞬でもTV視聴者の関心を引くつもりのようだ。イギリス、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、スイス代表チームのスタッフは、代表キャプテンに「One Love」と書かれたアームバンドをつけさせるとローリングストーン誌に語った。デンマーク代表のユニフォームメーカーは、ユニフォームから企業ロゴを外して抗議の意を示した。イングランド、ドイツ、ベルギー、オランダといった強豪国の国内サッカー連盟は今後も改革を訴え続けていくと述べ、人権は「あらゆる場所で適用されるべきだ」と返答した。

アディカリさんとしても、継続的な改革と未払いの補償のために憧れの選手たちが声を上げてくれることを願っている――給料を支払われず、困窮し、命を落としていった労働者のために。「僕はリオネル・メッシの大ファンなんです。キリアン・エムバペやネイマール、クリスティアーノ・ロナルドも」とアディカリさん。彼の顔に笑顔が浮かび、5000ドルの借金や衰弱する母親を危ぶむ恐怖がほんの一瞬消えた。「僕のような労働者の悲哀や痛みに選手たちが耳を傾け、FIFAのような組織に懸念の声を上げてくれたら――スター選手がそういうことをしてくれたら問題にも関心が集まり、何らかの解決策が出てくるでしょうね。でも、そこまで大きな期待はしていません」

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from Rolling Stone US

Translated by Akiko Kato

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