ブルース・スプリングスティーンが語る最新R&Bカバー集、ツアーの展望、さらなるアーカイブ企画

 
ニューアルバム制作を通じて発見したこと、続編の可能性

―あなたは今回のアルバムをEストリート・バンドとしてレコーディングしたかったのではないか、と言う人もいるでしょう。一方で、あなたは今回のようなタイプの作品がバンドにはマッチしないと考えていたように感じます。

BS:今、Eストリート・バンドに招集をかけるのは、少々大掛かりなプロジェクトになってしまう。前回のアルバム『Letter To You』にはバンドが参加したが、たった4日間だった。皆それぞれが、俳優やプロデューサーや自分のツアーなど、自分の仕事を持っている。スケジュール調整をできないことはないが、そう簡単ではない。それに今は、30年前とは違う。俺に何のアイディアもないままバンドを集めるなんてことは、したくない。まずはコンセプトを固めるのが先だ。

―サム・ムーアが参加しているのは、とてもクールです。90歳近くになっても今回のように歌えるのは、とても素晴らしいと思います。

BS:サムとは30年来の友人だ。アルバム『Human Touch』(1992年)では、「Real World」や「Soul Driver」などにも参加してくれた。彼のコーラスは素晴らしい。俺が知る中で最も素晴らしい高音のテノールだ。彼とのデュエットは、とにかく最高だ。現役のソウルシンガーの中で一番だと思う。

―今回のプロジェクトを通じて、モータウン作品の優れた技巧をあらためてリスペクトしたのではないでしょうか。作品を分解して再構築する中で、これまでとは全く違う聴こえ方をしたと思います。

BS:作品の素晴らしさを引き出しただけさ。俺が取り上げた作品は、ガーシュウィンやコール・ポーターのように、60年代や70年代、80年代のアメリカン・スタンダードとして扱われるべきだ。今でも通用する素晴らしい作品ばかりだ。当時のレコーディングも素晴らしいが、今では1965年や1970年には無かった方法でバージョンアップできる。作品のアレンジに豊かなサウンドを加えて、より大きなパワーを引き出せるのさ。俺たちが実現したのは、そういうことだ。



―個人的には、フランキー・ヴァリの「The Sun Ain’t Gonna Shine Anymore」が好きです。彼やザ・ウォーカー・ブラザーズのバージョンは、既に知っていたのでしょうか。

BS:実は、フランキー・ヴァリが歌っていたことは知らなかった。素晴らしい曲だ。もちろん、スコット・ウォーカーのバージョンは有名だ。俺は「Born To Run」や「Darkness」などではオペラ的な歌い方をしていたが、その後はずっと、バーテンダーのようなロック・ボイスで歌ってきた。だが「The Sun Ain’t Gonna Shine Anymore」では、昔のように、パワフルで丸みのあるトーンで歌えている。俺の好きな歌い方だ。全く違った印象になるから、このトーンで歌える他の曲も探して試してみたい。

―「Nightshift」はご存知のように、マーヴィン・ゲイやジャッキー・ウィルソンをよく知る人たちが書いた作品で、特別な存在だと思います。友人に捧げる曲でした。

BS:何度も言うが、とても素晴らしい作品だ。親しかった人たちに捧げた曲だ。ライオネル・リッチーがコモドアーズを抜けた直後に、この曲が大ヒットした。当時の俺のお気に入りで、その後何年も聴き続けた。何度聴いても涙が出てくる。とにかく素晴らしい曲なので、「絶対に外せない曲だ」と思った。



―ジェリー・バトラーやウィリアム・ベル、それからコモドアーズのウォルター・オレンジは今なお健在で、もっと評価されるべき存在だと思います。今回は、あなたが彼らにスポットライトを当てました。

BS:光栄なことだ。この半年間は、今までにないほどジェリー・バトラーにのめり込んだ。彼は素晴らしいシンガーであり、優れたライターだった。彼らのような素晴らしいアーティストには、第2、第3、第4、第5、第6の人生が与えられるべきだ。彼らの作品は、永遠に愛されて当然だ。俺は純粋に楽しみながら、喜んで今回のアルバムを作ったのさ。

―ニューアルバムでは、今までにない歌声も聴かれます。大音量のロックバンドを従えてシャウトしていた時代を考えると、声を休めて新たなことにチャレンジできるのではないでしょうか。

BS:どうかな。俺の声はパワフルなままだし、この5、60年は何の問題もない。風邪をひいた時だけは、声の調子が悪いけどね。でもハードでヘヴィに歌わなかったことで、このオフの時期に少し声の余裕ができたかもしれない。それはあり得るな。でも音楽は面白いもので、Aメロを歌っている時はマイルドな感じで、サビに来た途端に力が入り、少々だみ声になったりする。「Turn Back the Hands of Time」のようにね。

面白いもので、ファロンの番組の時に俺は歌いながら「もっと力を入れなければ」と思っていたが、実は十分にパワフルだった。音楽がそういう風にパフォーマンスして歌うように仕向けていたんだ。番組で歌うまでは、バンドと一緒にやったことがほとんどない曲だったので、気づかなかった。ファロンの番組でビッグバンドとやったことで、リアルな経験から学ぶことができた。すごく楽しかった。

―ファロンの番組向けに、それまで一緒に組んだことのないメンバーを集めました。「このメンバーでコンサートをしてみたい」と思った瞬間はありませんでしたか?

BS:シーガー・セッションズの時のように、素晴らしいメンバーが集まり、良いバンドだった。とても楽しめたから、彼らと一緒にもっとやると思う。

―今回のアルバムには、「Covers Vol.1(カバーシリーズ第1弾)」のサブタイトルが付いています。そうなると当然、第2弾が期待されます。

BS:『Vol.2』は、4分の3程度のレコーディングが済んでいるかな。

―次はどんなジャンルに取り組んでいるでしょうか。

BS:1枚目と同じ路線だ。今はソウルミュージックをやるのがとても楽しい。でも今後は、俺が好きなあらゆるジャンルをやっていこうと考えている。今は曲を書いていないからな。当分は書かないと思う。いつものことだが、『Letter To You』の時のように素晴らしい作品が出来上がった後は、しばらく書かないんだ。しかし今回は、俺もじっとしている訳には行かない。ファンも、次のアルバムまで4年も待ってはくれないだろう。俺には、好きなタイミングでレコーディングできる環境がある。それに、俺自身にやる気が出てきている。記事が出る頃には、次の準備に入っていると思うよ。

―すると間もなく、ブリティッシュ・インヴェイジョンなどの違うジャンルにも取り組むかもしれないということでしょうか。

BS:カントリーミュージックもいいな。カントリーで1枚のアルバムを作ってみたい。ロックもいい。やりたいものは、たくさんある。どれも俺の声が重要だ。俺がいかに上手く歌えるかだ。自分の曲作りをしていない今の時期に、自分の声を極めたい。

Translated by Smokva Tokyo

 
 
 
 

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