柄本佑が語る、こだわりが凝縮された監督作品『ippo』の制作秘話 

子供の頃、家族で映画『座頭市』を観たことがきっかけとなり、映画監督になることを夢見ていた柄本。母のマネージャーの勧めで『美しい夏キリシマ』のオーディションに応募し俳優となったが、監督の夢を追い求め専門学校に進学。そしてやっと今、夢だった監督となり、カメラの前に立ってみたことで役者としての意識、向き合い方にも何か影響はあったのだろうか。

「そういえば、今こうやって話していて思い出したんですけど、津川雅彦さんと現場をご一緒した時に、監督が撮影の途中で役者の動きを変えたことがあったんです。そしたら津川さんが、『それだとこっちからのカットが1つ増えちゃうじゃん』みたいなことをおっしゃって。もちろん津川さんは、監督をされたこともあるからそういう視点をお持ちなのかもしれませんが、きっと多かれ少なかれ、どの役者さんもセリフや動きに対して俯瞰的な目をお持ちだと思うんですよね」

役者はただ演技に没頭しているだけでなく、常に周りを見ながら作品の中での立ち位置を探っている。そう柄本が確信したのは、コロナ禍での作品作りの
時だったという。行定勲監督が外出自粛応援のため製作し、有村架純や二階堂ふみ、高良健吾らがボランティア出演した完全リモート撮影によるショートムービー『きょうのできごと a day in the home』『いまだったら言える気がする』は、それぞれの俳優がパソコンの前で演技をするという、極めて異例の作品だった。



「通常の撮影現場って、いろんな人に見られながら演技をしているんですよ。そこには監督やカメラマン、助監督、録音、照明、ものすごい数のスタッフがカメラの後に待機していて、その人たちに見られながら自分は演技をしている。それが自分にとってのモチベーションでもあったことに気づかされたというか。たった一人でパソコンを前に演技をしていると、一体自分は誰に向けて演じているのか分からなくなったんです。コロナ禍というイレギュラーな環境に置かれたことで、気づかされたことはいろいろありましたね」

監督として本格的なデビューを果たした柄本佑。次の目標は、加藤一浩と構想を温めていた長編映画を完成させることだという。

「とにかくやりたいこと尽くしの作品というか。実際に撮影したら3時間くらいになってしまいそうなくらい、アクションありラブストーリーあり、舞台が沖縄に移ったりするような大作なんです。『ippo』が無事に公開されたら、ようやく腰を据えで取り組めるかと思うと今から楽しみですね」


『ippo』
2023年1月7日、渋谷ユーロスペースほかにて公開


柄本佑
映画『美しい夏キリシマ』で主演デビュー。これまでにキネマ旬報ベスト· テン最優秀主演男優賞、毎日映画コンクール最優秀男優主演賞などを受賞。監督作品として第18回あきた十文字映画祭でお披露目した『帰郷★プレスリー』などがある。2023年3月には『シン· 仮面ライダー』が公開予定。


衣装協力:サスクワァッチファブリックス
ロケ地協力:ナイトフライ

Photo = Mitsuru Nishimura Styling = Michio Hayashi Hair and Make-up = Kanako Hoshino

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