ローリングストーン誌が選ぶ、2022年の年間ベスト・ムービー22選

(左から)『X エックス』、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、『RRR アールアールアール』、『TÁR』。A24, 2; MPC FILMS; FOCUS FEATURES

壮大なトリーウッド映画や慎ましやかなイラン映画、悪態をつくケイト・ブランシェットからマルチバースを救うミシェル・ヨー、そして次なる話題の韓国映画など……。米ローリングストーン誌が選んだ2022年のベストムービーを紹介する。

2022年は、映画の存在そのものが危機に瀕した一年だったかもしれない。度重なる行動制限によって劇場で映画を観るという贅沢は過去のものになりつつあった(そんな映画界をもう一年延命させてくれたトム・クルーズには、心から感謝の気持ちを伝えたい)。動画配信サービスは、気鋭の映画監督の新しいプロジェクトを後押しする一方で、そうした作品をアルゴリズムの渦にぶち込み、単なるひとつのコンテンツとしてオーディエンスに消費させた。シネコンのスクリーンにはスーパーヒーロー物が君臨し続け、シリーズ物は他の選択肢を犠牲にしてまで増殖、あるいはマルチバースでの展開を続けた(スコセッシ監督vsマーベルに関するSNS上の議論には、ここでは触れないことにしよう)。仮に誰もいない森の中で映画が音もなく大コケしたとしても、あるいはプロモーション活動中に人気ポップスターがベテラン俳優に唾を吐きかけたとしても、世間は気に留めてくれただろうか? “気軽に映画を楽しむ”という表現そのものが矛盾をはらむなか、映画の終焉を恐れた愛好家たちはクラシック映画を配信するストリーミングサービスに群がった。

映画界を取り巻く状況は総じて明るいとは言えないかもしれない。それでも、素晴らしい映画があることにはあった。重要なのは、それをどこで見つけるかであり、人生を変える、あるいはゲームを変えるような作品に出会えると信じ続けることだ。叙情詩風のドキュメンタリーから意外な超大作物に至るまで、2022年も良作に恵まれた一年だった。『TÁR』のように議論に火を付けたり、物議を醸したりする作品があれば、『NOPE/ノープ』のように無数の深掘り記事の着想源となった作品もあった。2022年は、さまざまなジャンルの映画に挑戦するにはうってつけの年でもあった。普段であれば20作のベスト・ムービーを紹介するところ、今回は過ぎゆく2022年を称えて、ラインアップを22作品に拡大した。ひとつひとつが“ベスト”の概念を再定義してくれる素晴らしい作品ばかりだ。最後にこれだけは言わせてほしい——映画は死んでなんかいないし、過去のものになることもない。

(ここで紹介しきれなかった『All the Beauty and the Bloodshed(原題)』、『アーマゲドン・タイム』、『バーバリアン』、『ボーンズ アンド オール』、『Catherine Called Birdy(原題)』、『Corsage(原題)』、『ドンバス』、『The Eternal Daughter(原題)』、『God’s Country(原題)』、『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』、『MEN 同じ顔の男たち』、『モンタナ・ストーリー』、『Moonage Daydream(原題)』、『ノースマン 導かれし復讐者』、『ピーター・フォン・カント』、『Playground(英題)』、『Return to Seoul(英題)』、『The Silent Twins(原題)』、『トップガン マーヴェリック』、『The Wonder(原題)』にも拍手を贈りたい。『秘密の森の、その向こう』と『わたしは最悪。』を今年のリストに入れるかどうか編集部でも議論があったが、これらは2021年のリストですでに何度も取り上げられていることから、2020年代のベスト・ムービーに取っておくことにした。)

22位『Crimes of the Future(原題)』
日本公開未定


NIKOS NIKOLOPOULOS



カナダ出身の映画界の寵児、デヴィッド・クローネンバーグ監督が8年ぶりの新作を携えて帰ってきた。『Crimes of the Future(原題)』(訳注:1970年の『クライム・オブ・ザ・フューチャー/未来犯罪の確立』とは別の作品)でクローネンバーグ監督が再訪するのは、彼を一躍ミッドナイト・ムービーのアイコンに押し上げると同時に、世界的なセンセーションを巻き起こしたグロテスクなボディ・ホラーの世界。本作の舞台は、医療目的ではない外科手術が一種の娯楽として定着した近未来の世界。絶大な人気を誇るパフォーマンス・アーティストのソール(ヴィゴ・モーテンセン)とパートナーのカプリス(レア・セドゥ)は、こうした外科手術を使ったパフォーマンスアートをオーディエンスの前で行っていた(彼らのパフォーマンスに夢中の役人を演じるクリステン・スチュワートは、いまの時代のミームにぴったりの「外科手術は新しいセックス」というパワーフレーズをささやく)。殺人計画やフィルム・ノワールの世界から飛び出してきたかのような警官たち、人間の漸進的進化を称えるアンダーグラウンド活動はもとより、テクノロジーと臓器を用いた巧妙なトリックなどの要素を見る限り、どうやらクローネンバーグ監督は原点に立ち帰ったようだ。古き良きクローネンバーグ作品万歳!

21位『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
2023年3月3日(金)よりTOHOシネマズ日比谷他全国劇場にて公開


ALLYSON RIGGS/A24



マルチバース(並行世界)で活躍するすべてのスーパーヒーローがマントをつけているとは限らない——ホットドッグのソーセージのように長い指やグーグルアイ(ギョロ目)を持つヒーローがいてもいいじゃないか。想定外のヒットで2022年の映画界に旋風を巻き起こしている『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』のメガホンを取ったのは、ダニエル・クワン監督とダニエル・シャイナート監督(通称:ダニエルズ)。本作の主人公は、破産寸前のコインランドリーを経営するエヴリン(ミシェル・ヨー)という女性。両監督は、父と夫、そして娘と4人暮らしのエヴリンの税金申告を異なる時間軸がぶつかり合うアクション大作へと昇華させた。本作の至るところに哀愁とくだらなさ、ピクサーの内輪ネタ、ウォン・カーウァイ監督を思わせる要素、アドレナリン出っ放しのアクションシーンが散りばめられている(間に合わせのバットプラグをめぐるバトルシーンが登場する他の映画があれば、どれだけ時間がかかってもいいので、ぜひ教えていただきたい)。だからといって両監督は、何でもありのクレイジーなアプローチが世代的なトラウマや家族の絆の良い面と悪い面、そして人生(あるいは、複数の人生)を無駄にしてしまったという感覚を埋もれさせるようなことはしない。本作は、カムバックを果たしたジョナサン・キーとパワフルなミシェル・ヨーが多彩な才能を披露する格好の舞台でもある。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE