レディ・ブラックバードと盟友が明かす、「ブラック・アシッド・ソウル」誕生秘話

レディ・ブラックバード、1月26日ビルボードライブ大阪にて(Photo by Kenju Uyama)

 
今年1月に大阪・東京で初来日公演を行ったLAのシンガー、レディ・ブラックバード(Lady Blackbird)にインタビュー。聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆。

レディ・ブラックバードはデビューアルバム『Black Acid Soul』を発表した2021年の時点で、若手とは思えない成熟した歌声と表現力を持ち合わせていた。彼女はもともと別の名義を名乗っていたが、ニーナ・シモンの歌に啓示を受け、ニーナの名曲「Black Bird」から拝借してレディ・ブラックバードと改名。シングルを次々と制作したのち、『Black Acid Soul』を完成させた。

『Black Acid Soul』は優れたオリジナル曲とセンス抜群のカバー曲、ソウルともジャズとも言い切れない独特なサウンドによって、レディ・ブラックバードがもつ特別な声の魅力を的確に浮かび上がらせている。その印象はライブでも変わらない。僕が観た渋谷WWWでの東京公演でも、レディ・ブラックバードはその歌声と、幅広い音楽性を内包しながらも統一感のある表現で、集まった観客を釘付けにした。

クリス・シーフィールドの貢献も見逃せない。来日公演で主にギターを担当していた彼は、トロンボーン・ショーティーからアンドラ・デイまでを手掛けてきた敏腕プロデューサーだ。ヴィンテージ・ソウルを熟知し、幅広いジャンルに深く精通しているクリスの支えがあるからこそ、レディ・ブラックバードは見事な再スタートを切れたに違いない。

東京公演の終演後、レディ・ブラックバードとクリスが楽屋で取材に応じてくれた。短時間での慌ただしいインタビューとなったが、2人の標榜する音楽がソウルなのか、ジャズなのか、サイケなのかという疑問の答えに、少し近づけたような気がする。


2023年1月26日、ビルボードライブ大阪にて(Photo by Kenju Uyama)

レディ・ブラックバード(以下、LB):私、実はすごくシャイなの(笑)。

クリス:みんなビール飲むよね? 君はサッポロとキリンのどっちにする?

―じゃあキリンで(笑)。さっそく最初の質問です。先ほどのライブでも、会場中が歌声に惹き込まれていました。自分の声が特別だと思ったのはいつ頃ですか?

レディ・ブラックバード:才能があるかないかを自分で感じたことはない。歌うということは、ただ、私が大好きなことに過ぎなかった。もしかしたら、むしろ、私がやらなければいけないことだったのかもしれない。自分にとって必要な場所だったというか。歌っていると、自分に居場所があるような気持ちになれたから。

楽屋での取材の様子

―その特別な声を手にいれるために、何かトレーニングをしたりしているんですか?

LB:そんなの自分にはわからない(笑)。私の人生を振り返ると、最初の記憶は2、3歳の頃のこと。人々が私のところにきて小銭をくれて、歌を歌っていたのを覚えてる。あと、青いレコードプレイヤーを持ってたのも覚えてるわね。物心ついたときから、歌を歌っていなかったことはない。私が自分の声に関していえるのは本当にそれだけ。始めてちゃんと歌ったのは、母や祖母と一緒にだった。教会で「Fill My Cup, Lord」を歌ったの。まだ3、4歳の時だったわね。観客が少なかったのはありがたかった(笑)。

―ボイストレーニングのような訓練はしたことがない?

LB:ないわね。母親がハモリ方を教えてくれたことくらい。

―それはすごいですね。最も憧れているボーカリストは?

レディ・ブラックバード:ビリー・ホリデイを聴かずには1日が始まらない時期があった。彼女の音楽を、本当に毎日聴いていたの。もう少し若い時は、グラディス・ナイトをたくさん聴いていた。母親が家の書斎を音楽室にしてくれて、スピーカーとモニター、カラオケマシンをセットして、グラディス・ナイトになりきってずっと歌ってたの(笑)。

―では子供の頃から現在まで、音楽性や好きなシンガーはそんなに変わっていないんですね。

LB:そうね。実のところ、私の秘密を暴露すると、私は今風になれなくて悩んだ時期があった。今でも、最近の音楽の質問をされたら、たぶん答えられないと思う。それは、私が「あの時代」から出られないから。私は大好きなものがあると、そこから動かない性格。そこにステイしてしまうの。それって素晴らしいことでもあるんだけどね。



―デビューアルバム『Black Acid Soul』はすごく成功しましたよね。その要因はどんなところにあると思いますか?

LB:それは自分には全くわからない。でも、これは単なる運命ではなかったと思う。私の想いがそういう結果につながったのかもしれないわね。あのアルバムを作ることは、私の大きな目的だった。その過程と想いが、ここまでの成果に導いてくれたんだと思う」

―あなたはクリスとの共同作業で、自分の声が活かせるサウンドを生み出していますよね。そこではどんな工夫をしてきたのでしょう?

LB:まず、とにかくお互いの話を聞くということを意識している。最初のプロジェクトでクリスと出会った時から、彼はずっと私の側にいてくれる。長い活動期間のなかではうまくいかないこともあって、現場に戻ったら誰もいないということもあったけど、彼だけはそこにいてくれた。

クリスがどう思っているかはわからないけれど、私は……私たちは2人ともお互いの価値を理解しているし、周りのみんなのことも理解していると思う。私は彼の才能を意識し、彼は私の才能を意識しているの。 私たちは敢えて何か工夫しようとしてるわけじゃない。ただお互いの話を聞いているだけで、何か特別なものを感じるのよね。お互い出会ったその時から、私たちは一緒に美しく長い旅をしている。私は、彼と一緒にいられて本当に幸せ。

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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