マイ・ケミカル・ロマンス、2001年のバンド誕生秘話

約40人のオーディエンスを前に初ライブ

ウェイによるとバンドはアルバムの制作を進めていて、ジェフ・リックリィがプロデュースを担当するという。「ジェフが誰だかはもちろん知ってた。音楽業界の人間で、次のニルヴァーナだと言われていたサーズデイのことを知らない人はいなかったから」。ルウィティンはそう話す。バンドのマネージャーにして欲しいという彼女の申し出を、ウェイは他のメンバーと相談した上で受け入れることにした。彼女はマネジメント経験がほぼ皆無だったものの、「絶対にやれるっていう自信があった」という。また、彼女が給料を要求しなかったことも大きかった。

マイ・ケミカル・ロマンスは2001年10月、ニュージャージー州ユーイングにあるElks Lodgeで初ライブを行うことになる。彼らの友人のフランク・アイエロがフロントマンを務めるハードコアバンドPencey Prep、そしてアイエロの従兄弟によるバンドMild 75のヘッドラインショーの前座としての出演だった。初めてのパフォーマンスを前にひどく緊張していたメンバーたちは、気を落ち着かせるために大量のビールを飲んだ。アルコールの力で覚悟を決めたバンドは、「Skylines and Turnstiles」で約40人の客を前にしたショーの幕を開けた。演奏後、バンドのパフォーマンスについてオーディエンスに意見を求めたところ、反応は上々だった。むしろ、それは熱狂的とさえ言えるほどだった。

「ものすごく盛り上がってたよ」。アイエロはそう話す。「俺はフロア後部の物販スペースの椅子に座って、彼らのパフォーマンスを観てた。全員ベロベロだったけど、パフォーマンスは凄かったよ。いつ事故ってもおかしくない危うい状況だったけど、ギリギリのところで成立してた。演奏時間は20分くらいだったと思う。ザ・スミスの『Jack the Ripper』のカバーもやってたな。たぶん8曲くらいやったと思う、ちょっと多いよね。でも俺は、このバンドには特別な何かがあるって感じてた。俺だけじゃなく、会場にいた全員がそう思ってたはずさ」

メンバーの大半が石像のように突っ立って演奏していたのに対し、経験豊富なフロントマンのように客を煽っていたジェラルド・ウェイだけは、マイクを握った瞬間にシャイな自分を完全に脱ぎ捨てていた。会場にステージはなく、彼はフロアを縦横無尽に駆け回った。ライブの場で彼に宿るペルソナからは、ジェフ・リックリィの感情表現、アイアン・メイデンのブルース・ディッキンソンのオペラ級に壮大なメタル魂、モリッシーの尊大な態度、そしてニュージャージーの至宝ミスフィッツのグレン・ダンジグの陰気臭さまで、ウェイにとってのヒーローたちの影響が見え隠れしていた。

ウェイが着ていた自作のシャツにプリントされていた「thank you for the venom」というフレーズは、後にバンドの楽曲のタイトルになる。「自分のバンドTを着ることが許されるのはアイアン・メイデンだけっていうのが、俺らの内輪のジョークだった」とSaavedra(バンドのデビュー作をリリースしたEyeball Recordsのオーナー)は話す。「でも彼らは自分のバンドのTシャツを堂々と着てた。自信に満ちていた彼らは、自分たちがアイアン・メイデン級にビッグになるって信じていたんだよ」

「特にジェラルドは、どんな存在にだってなれると確信しているようだった。誰に何と言われようとね」とアイエロは話す。「不思議だったよ。普段の彼は極端に内気で自意識過剰だったから。でも一旦ステージに上がると、何かを解き放ったかのように別人になるんだ」。それ以来、アイエロはマイケミのライブに毎回足を運ぶようになり、自分こそが一番のファンだと自負していた。バンドがトライステートエリアのホールやベニュー、小さなクラブで演奏する時には、親しい友人や家族、ガールフレンド等で構成されるバンドの親衛隊の一員として、彼は必ず駆けつけた。

「彼らは会場でデモ音源を収録したCD-Rを配ってて、その表面にはマイキーのメアドが書いてあった」とアイエロは話す。「それに入ってた曲には何か特別なものがあって、俺は何度も繰り返し聴いてた。結成したばかりの無名のバンドが書いた3曲にどうしてこんなに夢中になれるんだろうって、自分でも不思議で仕方なかったよ。彼らの曲は、当時流行ってたどんな音楽とも違ってた。ヴォイシングはユニークを通り越して奇妙なくらいで、レイ(・トロ:Gt)のクラシック音楽の素養も影響してたと思う。コード進行も奇想天外だった。言うまでもなく、ジェラルドのボーカルも大きな魅力だった」

Translated by Masaaki Yoshida

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