マイ・ケミカル・ロマンス、2001年のバンド誕生秘話

ギタリスト、フランク・アイエロの加入

地元での11回目のライブを終えた後、マイ・ケミカル・ロマンスは自分たちのサウンドには何かが足りないと感じるようになった。トロは優れたギタリストだったが、彼1人でできることには限界があり、バンドは音の厚みを増すためにもう1人ギタリストを加えることにした。また、ステージ上で存在感を発揮できるメンバーを迎えることで、ライブのエネルギーを強化するという目的もあった。

リックリィの提案を受けて、バンドはアイエロをメンバーとして加えることを検討していた。Pencey Prepは同年に控えていたCBGBでのライブを最後に解散することが決まっており、彼をバンドに迎えるには絶好のタイミングだった。アイエロはマイ・ケミカル・ロマンスの曲を熟知しており、お気に入りのパンクバンドであるブラック・フラッグの影響を感じさせる、ステージ上での破天荒なキャラクターも魅力だった。

アイエロは当初、高校時代からの友人であるPencey Prepのメンバーを置き去りにする形で新たなプロジェクトを始めることに難色を示した。それでも、マイ・ケミカル・ロマンスへの加入という魅力的なオファーを断ることはできなかった。「根拠があったわけじゃないけど、このバンドは何か大きなことを成し遂げるって、俺たちみんなが確信してた」と彼は話す。「長く一緒にやってきたバンドのメンバーを裏切るのは辛かった。でも、マイ・ケミカル・ロマンスは俺が世界で一番好きなバンドだったから。そのメンバーになれるチャンスが与えられたんだから、断るわけにはいかないさ」

「当初4ピースだったバンドに、フランキーが加わったの」とルウィティンは話す。「彼はまさにバンドが必要としていた存在だった。ジェラルドが1人で受け止めていた視線を、彼は自分に向けさせることができたから。それはステージ上でガチガチになるマイキーにはできないことだった。ドラマーのオッター(Matt Pelissier )はシャイというわけじゃなかったけど、彼は縁の下の力持ちタイプだった。レイはテクニシャンだけど、フランキーのような客を惹きつけるカリスマ性は持っていなかったから」

アイエロの功績は、バンドのリズムセクションを強化しただけではなかった。彼が時折放つ金切り声のバックアップ・ボーカルは、ニューブランズウィックのアンダーグラウンドシーンで人気だったスクリーモの影響下にあるマイケミのサウンドに、痺れるようなハードコアの要素を注入した。彼はバンドのワイルドカードとして、バスドラムの上からダイブしたり、フロアで悶えたりすることで注目を集めた。

アイエロが加入してすぐ、5人組として再スタートを切ったバンドは、Nada Studiosでデビューアルバムのレコーディングを敢行した。スタジオを初めて利用する彼らは、まるでクリスマスを迎えた子供のようにはしゃいだ。Nada StudiosはエンジニアのJohn Nacleiroの母親の自宅の地下に作られた、こじんまりとしたスタジオだった。天井は低く、機材がスペースの大半を占めており、レコーディングブースに入るには洗濯室を通る必要があった。それでも、本格的なミキシングボードと吸音材で覆われた壁を目にしただけで、彼らはプロのロックスターの気分を味わうことができた。

「単なるホームスタジオだったけど、彼らにとってはElectric Ladyのような場所だったはずだよ。特にレイは興奮してたね、子供のようにはしゃいでた」とSaavedraは話す。「足がガクガク震えてて、マイクがその音を拾ってしまったことが何度かあってさ。『おい、じっとしてろよ!』って俺らが言うと、『ごめん!興奮しちゃってさ』なんて言ってたよ」

予算の都合で2週間しかスタジオを抑えられなかったため、デビューアルバム『I Brought You My Bullets, You Brought Me Your Love』のレコーディングは急ピッチで進められた。各メンバーの多様な好みが反映された11曲はまとまりに欠けたが、雑多な音楽性は彼らの魅力の一部でもあった。5分強の「Early Sunsets Over Monroeville」は、ザ・プロミス・リングに象徴される90年代のエモシーンへのオマージュだ。暴れ馬のようなパンクビートが印象的な「This Is the Best Day Ever」は、ニュージャージーの大御所バンドLifetimeからの影響を感じさせる。曲構成が最も複雑な「Honey, This Mirror Isn’t Big Enough for the Two of Us」では、壊れたカーラジオのようにムードが頻繁かつ唐突に変化する。いかにもメタル好きらしいリフを刻んだかと思えば、メロディックなヴァースでは不規則にざらついたシャウトが響くなど、様々なスタイルへの関心が渾然一体となっていた。



Translated by Masaaki Yoshida

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