中嶋ユキノが破った自分の殻、新作で表現した嘘偽りのない自分

ーただ、その夢を叶えてくれた「ギターケースの中の僕」のリリースタイミングがコロナ禍の真っ只中で、ライブの中止などもあったと思うんですけど、今振り返るとどんな日々だったなと思いますか?

とにかく「声を出せない」ということで、ライブに来てくださるファンの皆さんと「どこから来たの?」「〇〇から来ましたー!」みたいな会話が出来ないし、笑い声すら思い切り出せない状態だったので、アーティストの皆さんもすごく苦しんでいらっしゃいましたし、私自身も「ライブをやったらどうなるんだろう」と思っていたんです。でも、私は逆に、意識を良い方向へ変えられたところもあって。私は今までライブというものに対して「間違ったらどうしよう?」とか「MCで何か言ってヘマしたらどうしよう?」という気持ちがあったんですね。それはきっと下積みが長かったせいもあると思うんですよ。上手くいかないことを繰り返してきたので、どうしても……。

ー失敗するイメージを浮かべてしまう?

そうなんですよ! 成功体験が少ないから(笑)。ただ、このコロナ禍の中で、それでもライブに足を運んで下さる方たちというのは、感染リスクがあるかもしれないし、誰かに感染させてしまうかもしれない、そういう状況下でチケットを買って来て下さるわけじゃないですか。それがとても有難くて、なんて心の励ましになるものなんだろうと思ったんです。だから「間違ったらどうしよう?」とか考えている場合じゃないと。お客さんの手拍子やマスク越しの笑顔に対して全力で応えたいと思ったんですよね。そういう意味では、コロナ禍というマイナス要素を自分の中で変換できて、ライブを全力で楽しめるようになれたのは、私にとってプラスの出来事だったんです。

ーファンの想いに突き動かされたわけですね。

ただ、去年の「ふたり旅2022夏~あなたの街へ~」というツアーは、私がコロナに感染して中止にしてしまった公演が4本もあって。最後の公演はなんとか復帰して「本当に申し訳なかったな」と思いながらその日を迎えたんですけど、ステージに出た瞬間にファンの皆さんが泣いていらっしゃったんですよ。それを見たときに「こんなに楽しみにして待ってくれていたのね!」とグッと来てしまって。1曲目、声が震えて震えて仕方ない状態で歌ったんですけど、ボードに「おかえり」と書いて出迎えてくれる方もいらっしゃいましたし、あの瞬間は本当に嬉しかったですね。

ーユキノさんにとってファンはどんな存在なんですか?

私がわりとへなちょこな部分もあったりするので、子供を見るようだったり、友達を見るようだったり、妹や親戚の子を見るようだったり……そういう意味で、本当に支えて下さっている存在ですね。私自身も憧れの対象として見られるよりは、手を繋いで「本当にそうだよね!」って分かち合えるような関係性でいたいので、例えば「あ! 中嶋さん出てきた!キャー!!」みたいな感じではないと思います(笑)。

ーこの数年間は、コロナ禍は苦しめられた一方で、そんなファンの皆さんと絆を深められた期間でもあったわけですね。

そうですね。コロナ禍になって(ライブ代わりの)交流の機会としてLINE LIVEでよく配信していたんですけど、それも私とファンの皆さんの距離を縮めてくれた要因のひとつで。無料で気軽に観られる配信で歌ったり、ファンの方のコメントを拾ってお話したりしていく中で、私のワチャワチャした人柄を知ってもらえたんですよ。それまではアーティスト写真のお淑やかでマジメそうなイメージを抱いている方が多かったんですけど、実際にネットを通して会話したことで「あ、こんなにフランクな人なんだ!」と。

ー素に近い自分を見てもらったことで、開けた世界があったと。

それによってライブでの温度や距離感も変わった気がしますね。特にこれからライブでの(観客の)声出しがOKになると、リアルな会話もできるようになるわけじゃないですか。私の中でライブは、自分の部屋に「ようこそ!」と招き入れるような感覚でありたいと思っているので、みんなとおしゃべりできるようになったらもっと距離感が縮まるんじゃないかなって。

ーちなみに「ギターケースの中の僕」で「みんなのうた」に起用されるという夢を叶えたわけですけど、それを実際にみんなで歌うというアプローチはコロナ禍で実現できなかったわけじゃないですか。

そうなんですよ!「ギターケースの中の僕」をリリースしたときに、ライブに来てくれたお客さんひとりひとりに歌詞カードを配って「それでは、みんなで歌いましょう!」みたいなことをしたかったんですけど、それがずっと出来なかったんですよね。

ー今こそ叶えたいんじゃないですか?

叶えたいです! 私、ライブで実現したい夢があって。それは中嶋ユキノの歌を全曲、最初から最後までみんなで歌うことなんです。例えば「真ん中から右の皆さんはこのパート、左の皆さんはこのパート」みたいなコーラス割りとかもして。そんなライブが出来たら最高だなってずっと思っているんです。みんなでリアルカラオケライブみたいな。それこそ「みんな主役だよ!」って言い切れるライブになると思うんですよね。会場全体が主役になったら、みんな超ハッピーじゃないですか。

ー実現したら音楽史上初のライブになりますよ。聴くだけじゃなく歌うことで込み上げてくる感情ってありますから、みんなで泣きながら大合唱しているような光景だって生まれるでしょうし。

実現したいですね。なんで曲を作っているかと言ったら、皆さんと共有したいからなんですよ。それを間接的じゃなくリアルで直接的な場で実現できたら、曲を作っている身として最高の瞬間だと思うんです。なので、早く堂々とマスクを外してみんなで歌える状況になってほしいですね。

Rolling Stone Japan 編集部

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