中嶋ユキノが破った自分の殻、新作で表現した嘘偽りのない自分

ー「All or Nothing」以外の収録曲についても触れていきたいのですが、1曲目「はじまりの鐘」。最初は頑張るサラリーマンに向けて書いていたそうですが、最終的にどんな曲に仕上がったなと感じていますか?

前回のインタビューで「私は楽器を一切やったことがない人間だったので、アカペラでメロディを付けていたんですよ。それがシンガー・ソングライターとしてのルーツですね」とお話しさせて頂いたんですけど、その初心にかえる作り方をして。iPhoneのボイスメモにメロディーを最初から最後まで「ラララ」で入れていって、あとから伴奏を付けて、頑張るサラリーマンやOLさんに向けて「夢はいくつからでも始められる」というテーマで歌詞を書いていたんですけど、自分自身の歌にしようとなったときに「ステージに立つまでの歌にしてみよう」と。バンド仲間と新幹線に乗って旅へ出て、ライブ会場のある土地に着いて、車に楽器を詰め込んでワイワイ話しながら走り出す。そこから自分のストーリーを描いていこうと。

ーロードムービー的な要素を取り入れたんですね。

EP『ギターケースの中の僕』の中に「時がたっても」という曲を収録したんですけど、それはライブが終わったあとの模様というか、街に出て過ごしている様子だったり、ライブというものに対しての想いを書いたんです。それをライブの最後に歌うとしたら、ライブのはじまりに歌うのは……と想像しながら書いていった曲が「はじまりの鐘」なんです。なので、今回のミニアルバムでも1曲目に持ってきました。

ー「「あの頃は幸せだった」じゃなくて「あの頃より幸せ」って言える未来がいい」というフレーズが印象的でした。

これは自分が残していたメモにあった言葉なんですけど、これだけいろんなことを経験させて頂いている音楽人生の中で「常にアップデートしていたい」と私は思ってきたので、昔のほうがよかったと思うのはイヤなんですよね。「あの頃に戻りたいな」みたいな自分もたまに顔を出してくるんですけど、そうじゃなくて本当にちいさいことでもいいから「今がいちばん良いよね」と思える経験を積み重ねていきたいんです。

ー「あの頃は幸せだった」と思いがちな心に刺さる曲でもありますよね。そういう意味での共感性が今回のミニアルバム『新しい空の下で』には溢れていて。素の自分を露わにしている作品ながら、独り善がりにならない。これはユキノさんがポップスを歌う人としての才覚に恵まれているからだと思いました。

歌詞を書く=共有するという意識が強いからでしょうね。自分が聴いて共感する、自分自身もその曲や歌詞のファンでありたい。という想いが昔から変わらずあるんですよ。イチリスナーとして「だよね!」って私も言いたいんです。他のアーティストさんの曲を聴くときも「だよね!」と思える歌を好きになるので、自分もそういう曲を歌っていきたいんですよね。

Rolling Stone Japan 編集部

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