中嶋ユキノが破った自分の殻、新作で表現した嘘偽りのない自分

ーそんな夢が膨らみまくっている中嶋ユキノさんの新作、ミニアルバム『新しい空の下で』が完成しました。どんな作品を目指して制作されたものなんでしょうか?

今春に「中嶋ユキノ アコ旅2023 ~新しい空の下で~」を開催するんですけど、そのツアーに出るにあたって新しい作品をリリースしたいと話していて。それで、配信シングルとかいろいろ選択肢はあったんですけど、それこそ「ギターケースの中の僕」以降に作った曲や今まで温めていた曲をバァーっと並べて、今の自分を表現できる6曲をミニアルバムという形で制作することになったんです。

ー自身では、仕上がりにどんな印象や感想を?

いちばん最後のボーカル録りが「新しい空の下で」というタイトル曲だったんですけど、それが終わってミックス作業をしているときに「本当に良いミニアルバムが出来たな」と思って。浜田省吾さんとサウンドプロデュースしてくれた宗本康兵くん、エンジニアの野口さんに「何年かかったとしても、この曲たちは必ず届くと思うんです」って初めて口にした自分がいたぐらい、すごく自信を持ってお届けできる作品になったなと。

ーそこまで確信できた要因は何だったんですか?

今までは歌詞を書く上で、自分と違う主人公を立てることも多かったんですけど、今回のミニアルバムは浜田さんから「中嶋さん自身のことを書いたらどうですか?」というアドバイスがあったんです。例えば、1曲目「はじまりの鐘」は、最初は頑張るサラリーマンやOLさんに向けて書いていたんですけど、そうじゃなくて私が今想っていることを書こうと。それですごく深堀りしていって、嘘偽りない自分を表現していったんですよね。自分の想いを怖がらずに示して「私は今こう思っているんだよね、みんなはどう?」みたいな。そういう6曲が今作には収められているので、絶対に届くに違いないと思って。

ーなんで浜田さんはこのタイミングで「自身のことを書いたらどうですか?」と提案してくれたんですかね?

歌詞の書き方的に、私が歌詞提供をしていたこともあって「こういう言葉を使えば美しい表現になる」とか「この言葉は歌詞には合わないんじゃないか」とかそういう固定観念が今まであったんですよね。それによって綺麗にまとまった歌詞は書けていたと思うんですけど、でも、心をちょっと抉られたりとか、グッと来るような歌詞ってその人の人間味が溢れている。浜田さんとそんな話をしている中で「中嶋さん、普段想っていることいっぱいあるんじゃないですか?」と。固定観念を取っ払って、私の人間性をもっと表出させたほうが良いと思われたんだと思います。

ー殻を破ってくれたわけですね。

それの良い例が5曲目の「All or Nothing」なんですけど、この曲こそノンフィクションソングです。例えば「朝っぱらから YouTube開いて 今流行りの 動画をひとり見てた」なんて日常の超リアルで、そのあとの「認めたくなんか これっぽちもないけど 心のどこかで いいね!をつけてしまう」とか、2番の「不安ばかり いつもかき集めて それでも お腹は空いてしまうし 寝たら半分くらい 忘れちゃうけど」みたいな感覚って皆さんの中にもあると思うんですよ。ただ、私はそんなことを歌詞にしちゃっていいのかと思っていて。でも、浜田さんが「この曲でいちばん良いところはここ!それでも お腹は空いてしまうし 寝たら半分くらい 忘れちゃうけど……ここに中嶋さんの人柄が出ていますよね」と言って下さったんです。

ーなるほど。

以前の私だったら「歌詞でこんなこと書いちゃっていいのかな?」と思っていたんですよ。良い人に見られたいし、良い風に思われたいみたいな自分がいたりして。それを今回取っ払えたのは大きい変化でしたね。

ーただ、素の自分を見せるのは勇気が要ったんじゃないですか?

要りますね。歌詞を書くというのは、自分の中身を見せる行為でもあるので。なので、私にとって作詞はラスボスなんですよ(笑)。ひとつの歌を完成させるうえで作曲とか歌入れとかいろいろあるんですけど、いちばん核になるのは歌詞なので。それが書けたときに自分でも「こんなお話だったんですね、この曲は」とようやく全貌が見えてくるので、そこで素の自分を書いてしまうということはすごく勇気が要るんですよね。でも、今回の制作で挑戦してみて殻を破ることができましたし、改めて歌詞の重要さを感じることができました。

Rolling Stone Japan 編集部

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