中嶋ユキノが破った自分の殻、新作で表現した嘘偽りのない自分

ー続いて、2曲目「なんでなの!?」。こちらも日常を切り取った、その上で振り切ったポップソングですよね。

これは「ライブで盛り上がれる曲をつくろう」と決めてつくっていて、最初はこのメロディーだったら「みんな、お茶でも飲みに行こうよ」みたいな感じの歌詞かなと思っていたんですけど、なんかサビが締まらなくて。それで「中嶋こんなに頑張ってんのに何とかならないの、なんでかな〜!?」と冗談半分で言っていたら、「あ、これかもしれない」と思って(笑)。そこから頑張っていても上手くいかない、でも愛されキャラのOLさんを主人公にして「なんでなの!? なんでなの!?」っていう毎日をひたすら繰り返していくストーリーが浮かんだんです。



ー実際に自分が「なんでなの!?」と思っていたら「なんでなの!?」という曲が完成してしまったという(笑)。

そうなんですよ。しかも結果的に「中嶋らしさってコレなのかな」と思える楽曲になって。ちなみに「ストレス解消のために ハンバーグでも作ろう」という歌詞があるんですけど、なんでハンバーグを選んだかと言うと、ストレス解消になる料理が何か考えたときに「フン! フン! コノヤロウ!」と言いながらひき肉をこねる姿が浮かんできたからなんですよ(笑)。そしたら「お肉もパン粉も買ったし」とか「上手く焼けたな! ガッツポーズ」なんていう、以前の自分だったら絶対に書かないフレーズも飛び出してきて!

ーハジけたナンバーが生まれたわけですね。続いて、3曲目「誰かにそっと」。こちらは打って変わって重みのある、切ない失恋ソングになっています。

これはすごく落ち込んだ日があって。部屋に帰って、間接照明に照らされているギターを見て、おもむろにそのギターでマイナー調のコードをぽろぽろ弾いていたら、自然と「誰かにそっと 誰かにそっと」というサビの部分を歌っていたんです。で、いつの間にか曲を書き始めていた。失恋ソングは今までも書いてきたんですけど、この曲は最後まで「あなた」という言葉を使っていないんです。ずっと「あなた」という具体的な対象を掻き消すように「誰か」を探していて、だけど、やっぱりいちばん最後には「あなた」になってしまう……という、自分の中で新しい書き方をした曲なんですよね。

ー結局「あなたにそっと」と思ってしまう切なさ。これも共感性が高い。

ただ、この曲をレコーディングしていたときに「どうして 街で似た人を見かけると 気づいたら追いかけてしまうんだろう」という歌詞に対して「……これ、怖くない?」と言われてしまって(笑)。でも、こういうシチュエーションってあると思うんですよ。追いかけるまではしないとしても、好きな人に似ている人がいたら「あれ、今いた?」って振り返ってしまったり。

ーただ、ユキノさんは追いかけてしまうかもしれないと。

追いかけるかもしれない。今の時期はマスクしていて誰だか分かんないから余計に怖いかもしれないけど(笑)。

ーそのフレーズに限ったことじゃなく、本当に振り切れた歌詞が多いミニアルバムですよね。4曲目「虹」も「愛しい人と共に新しく 生きてね」など突き刺さるフレーズのオンパレードですが、この曲はFairlife(浜田省吾・春嵐・水谷公生のプロジェクト)のカバーなんですよね。

この曲をカバーさせて頂いたのは、浜田さんから「中嶋さんの歌声と歌い方に合うと思し、ライブでもすごく映える1曲になるはず」と仰って頂いたからなんです。それで実際にレコーディングしてみたら、曲調もそうですし、感情を込めて歌い上げるんじゃなくて淡々と感情を歌う……その世界観が自分に合っているなと感じまして。ただ、春嵐さんが書かれている「あなたの記憶が碇(いかり)となって 私をとどめている」という詩的な表現。これは絶対に私には書けないなと思いました。ひとつ前の曲「誰かにそっと」で「街で似た人を見かけると 気づいたら追いかけてしまう」と歌っているぐらいなんで(笑)。でも、だからこそすごく新鮮な感覚で歌うことが出来たんですよね。

Rolling Stone Japan 編集部

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