ファッション業界の闇、性的暴行を告発し干されたモデルたちの悲劇 米

#MeToo運動が起きてから5年以上が経過したものの、著名な実力者から性的不適切行為に遭ったと告発した複数のモデルたちによれば、ファッション業界は加害者に何もしていない。名乗り出た代償として、モデルたちは報復され、口止めされ、後ろ指を指されている。

「今の私の状況がまさにそうです。ブラックリスト入りです」とサットンさんは主張する。「言い回しや度合いは様々ですが、この10年私がうけたとばっちりは、ろくに仕事ができなくなったことですね。活動家として声を上げているのでHourglass Cosmeticsからは仕事をいただいていますが、それ以外はほぼ皆無です」。

カルヴァン・クラインの広告モデルを務めたこともあるサットンさんは、マリー氏の暴行を訴えた後、パリのアパートから追い出されて困窮生活を送らざるを得なかったという。10代でヨーロッパに出てきたアメリカ人は、時に騙され、見捨てられ、搾取され、人生に迷い、金銭的に自立することもままならなかった。加害者はサットンさんの生活の糧を支配していたも同然だった。業界からのサポートがなかったことに加え、性的暴行で受けた精神的ダメージが原因で、一時拒食症にもなったという。数年後に外傷後ストレス障害と診断されたが、その原因はモデルの世界での痛ましい経験だった。

「権力者からしっぺ返しされたことで、声をあげるとどうなるか思い知らされました。それは今も続いてます」とサットンさん。「業界内部からの告発者として、長いこと要注意人物として目の敵にされた。でもその時私はまだ17歳でした」

サットンさんが仕事をほされたのは、業界で影響力を持つ他の人々が手を回したからだとサットンさんは主張している。

「この業界には味方はほとんどいませんでした。とくにヨーロッパの事務所やエージェントの場合、権力者がショウを仕切るのが通常です。若い女性を守るためにエージェントが何かしてくれるとは限りません。もちろんモデルを大事にしてくれるエージェントも数人いました。最初に声をあげてくれたのが、エリートのシカゴ支部のトップだったマリー・P・アンダーソン氏です。彼女はモデルを守ってくれましたが、彼女もとばっちりを受けました」

1983年から1990年までエリート・モデル・マネジメントのシカゴ支部に勤務し、現在はモデル養成事務所Boss Babe Modelsを経営するアンダーソン氏は、モデルの不当な扱いを告発すると決心したが、その時の決断は今も昔も業界内部ではよく思われていないそうだ。

「長年、業界全般からのけ者扱いされてきました。文字通りわざわざ根回しをして、私がアメリカ各都市の事務所で働けないようにしたんです――あいつは『クレイジーで』『物事を大げさにする』とかなんとか理由をつけて。人脈作りのイベントに行くと、いろんなエージェントから、業界の闇について『黙っていろ』と言われました」

不当な扱いを告発しようかと迷っているモデルは、想定される結果を頭に入れておくべきだとアンダーソン氏は言う。

「業界にはプロらしからぬ慣習が相当残っています――言葉による虐待、身体的虐待、性的虐待、怪しげな金の出所など……加害者に対する責任追及はほとんどありません」とアンダーソン氏。「心に傷を抱えた犠牲者に対するサポートは、まったくといっていいほど組み込まれていません」

Akiko Kato

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