ファッション業界の闇、性的暴行を告発し干されたモデルたちの悲劇 米

ヴォーグ誌の表紙を飾ったこともあるサットンさんは、パリのマリー氏のアパートから追い出された後、仕事が止まったそうだ。

「キャスティングにも行かせてもらえなくなりました。何か裏があったのは明らかです。キャリアで成功できたのはずっと先、何年も後になってからでした」と彼女は証言した。


2001年、エリート・モデル・マネジメントのジェラール・マリー氏(STÉPHANE RUET/GETTY IMAGES)

さらに彼女はこう続ける。「トラウマ専門のセラピストの助けで、10年かかってようやく自分の経験を口にし、これは普通じゃないと言えるようになりました。自分の経験が当たり前のように刷り込まれていたので、成功してからも有名フォトグラファーとの撮影で『僕にファックされているつもりになって。そういう目線をして』と言われることがよくありました。当時は20代後半から30代でしたが、何も言い返せなかった」。

マリー氏に対する性的暴行容疑は1980年代から90年代に遡るが、フランス検事局は2月13日、時効成立を理由に捜査を打ち切った。

マリー氏の弁護人を務めるセリーヌ・ビカーマン氏は、「ジェラール・マリー氏に対する訴えは取り下げられました。2年間ジェラール・マリー氏が被った破廉恥なメディア攻撃にもかかわらず、最終的に正義が勝利しました。今回の決定で、ジェラール・マリー氏が未来永劫無実であることが明らかになりました。ここからは償いをする時です」。

一方サットンさんの弁護人を務めるジョン・クルーン氏は、刑事訴訟の取り下げ決定に驚かなかったと言う。

「フランスの時効制度を考えれば、マリー氏不起訴の決定は想定の範囲内でした。フランスには、今後は同様の訴えが裁判に進展するよう法律を厳しく見直していただきたい。今回の決定が、カレさんの民事訴訟の行方に影響を及ぼすことはないでしょう」

ジョン・クルーン弁護士は、控訴を決めるまでの間、マリー氏に対する民事訴訟はいったん保留すると明らかにした。

「カレさんの訴訟は第2巡回控訴裁判所への控訴待ちです。下級裁判所は彼女の訴えがニューヨーク州の児童被害者法には該当しないため、時効が成立するとの判決を下しました。その判決に控訴します」とクルーン氏。「マリー氏は以前も時効を理由に起訴を逃れました。これだけ大勢の女性たちが暴行を通報していても、ごく最近暴行された被害者が出てこない限り、同氏が起訴されることはないでしょう」。

控訴裁判の冒頭陳述は5月10日、ニューヨーク州で予定されている。

マリー氏の弁護人を務めるセリーヌ・ビカーマン氏はサットンさんの主張を否定し、ローリングストーン誌にこう語った。「依頼人は、自らに対する誹謗中傷や虚偽の容疑に断固反論します。容疑が事実無根で、裏付けとなる証拠が一切ないにも関わらず、依頼人は2年間メディアから前例のない嫌がらせを受けました」。

被害者代表で2児の母親でもあるサットンさんは、ファッション業界でモデルが性的不適切行為を安心して告発できると考えるのは「まやかし」だと言う。モデルが声をあげようと決心した場合、それもまだ成功していないモデルの場合、「生き残る可能性はゼロ、もしくは限りなくゼロに等しいでしょう。権力の座にある人が告発してもとばっちりを食うのですから。間違いなくレッテルを張られてしまう。罰を受けるのは確実です。(自分の場合は)すでにダメージを受けています。後悔もしていません。娘もいますし、自分には倫理的・道徳的責任があります」とサットンさんは考えている。

Akiko Kato

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