ファッション業界の闇、性的暴行を告発し干されたモデルたちの悲劇 米

「どれだけ多くの若者がこの業界に入りたがっているかを考えると、心が痛みます。金銭的にも、感情や精神的な面でも、実際に落とし穴や危険があることを知らないんですからね」とローリングストーン誌に語るのは、元モデルのブレット・ポールさんだ。「自分の場合、誰も何も教えてくれなかった。ただ撮影に日取りと場所しか教えてくれなかった。(すると)暴行が起きる。とんでもない話です」

ポールさんはファッションフォトグラファーのリック・デイ氏から性的暴行を受けた。2007年、デイ氏のアパートで撮影していた時だったそうだ。その時の撮影ではカメラマンがヘアとメイクを兼任し、ポールさんの髪や下着を整えた。撮影が進むにしたがって、デイ氏はポールさんにたびたび接触し、ローションを塗るついでに股間に触れたりした。そして着用していたスケスケのブリーフから勃起しているのを見せるため、自分の股間を触るようポールさんに指示した後、おもむろに近づいて跪き、ポールさんに手淫して、顔に射精してくれと懇願した。ポールさんはショックを受けた。


バレット・ポールさん 2017年2月22日、ニューヨーク市にて(PAUL BRUINOOGE/PATRICK MCMULLAN/GETTY IMAGES)

当時ポールさんは19歳の男性モデルで、童貞だったが、数年間口をつぐんだままだった。その後#MeToo運動が勢いを増すにつれ、ポールさんは当時所属していた事務所Qモデルマネジメントのエージェントに、デイ氏から性的暴行を受けたことを打ち明けた。

エージェントは冷たい反応だったそうだ。「君にどうこう指図することはできないが、おそらく君のキャリアに響くだろう」。

ローリングストーン誌はデイ氏とポールさんがやりとりした2018年2月7日付のメールを入手した。同年1月、ポールさんはモデル業界でゲイの男性であることの辛さをYouTubeで語っていた。

メールのやり取りでデイ氏はこう書いている。「君に伝えたい。僕はとても最悪な気分だ。申し訳ない。気味がそんな気持ちだったなんて、僕はこの先一生悩み続けるだろう」。これに対してポールさんはこう返信している。「もし額面通りすまないと思っているなら、少なくとも僕に説明するだけの心遣いを見せてほしい。なぜ撮影の終盤で、19歳だった僕に近づき、僕にヌかせるのが適切だと思ったのか説明してほしい。あれはあくまでも仕事上の環境だったはずだ。僕からモーションをかけたわけでもないし、僕はまだ子供だった」。その後デイ氏はお茶でもどうかと誘ってきた。ポールさんは返事をしなかった。

「こういうことは、完全に癒えることはないと思います。僕は19歳で、あまりにも恥ずかしくて誰にも言えなかった。本当に恥じていたんです。当時はクイアを公言していませんでしたから」とポールさん。「あの時はどうしても言い出せなかった。僕にとっては、男性とあんな風になったのも初めてでした」

2018年7月号のThe Advocate誌で、ポールさんを含む2人の男性モデルがデイ氏から性的暴行を受けたと打ち明けている。にもかかわらず、デイ氏は今もDNA誌やL‘Officiel Italia誌、エスクワイア誌などで撮影を続けている。デイ氏はOnlyFansにもアカウントを持っており、「無修正画像や動画を日替わりで」購読者に届けると謳っている。中には「筋肉ムキムキ少年」や「ガリガリの子は必ずデカまら」といったきわどいコンテンツもある。同氏のTwitterやInstagramのページは、友達申請が必要な鍵アカになっている。

デイ氏に度々コメント取材を申請したが、返答は得られなかった。

「自問しました。自分はキャリアをふいにしようとしているんだぞ。簡単に引き受けられることじゃないのは分かっているだろう、と。仕事人生が変わることは間違いないのはわかっていました」とポールさんは付け加えた。

ポールさんが自らの経験を暴露すると、「暴行当事者がクラブで僕に近づいてきて、謝罪しました。でも。具体的に何についての謝罪かは決して言いませんでした」。

告発前夜、ポールさんは2019年にモデル業を引退することにし、ソーシャルメディアに活動の場を移してインフルエンサーになった。現在はTikTokで活躍している。

「モデル業界から足を洗うことにしたのは、ほとんどといっていいほど境界線が尊重されていなかったからです。自分の身体が自分のもののように思えず、この業界で成功するには魂と身の安全を犠牲にしなくちゃいけないことに気づきました。どちらもかけがえのないものです」とポールさん。「どんな夢も、安全を犠牲にしてまで叶える価値はありません。業界でいろいろ経験した末に悟りました。自分の夢はモデルになることではなく、真の意味でローモデルになることだと」

Akiko Kato

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