ファッション業界の闇、性的暴行を告発し干されたモデルたちの悲劇 米

2020年2月、Guess?のモデルだったアマンダ・ロドリゲスさんはブランドのCEOを務めるポール・マルシアーノ氏から、ウェストハリウッドの「会議」で仕事について話し合おうと誘われた。ロドリゲスさんが現地に到着すると会議の場所はもぬけの殻で、ベッド以外は何の家具もないアパートの一室だった。ロドリゲスさんは裁判資料の中で、この部屋を「レイプ部屋」と呼んでいる。

ロサンゼルスで申し立てられた訴状によれば(当初はマルシアーノ氏からの報復を恐れて、原告名は匿名だった)、ロドリゲスさんが「レイプ部屋」に入ると、マルシアーノ氏が無理矢理キスをして胸元を開いた。「(同氏は)胸が痛くなるほど握りしめ、乳房に口を押し付けた」。

訴状にもあるように、ロドリゲスさんは「こういうのはやめてほしい」とマルシアーノ氏に言った。ファッション業界の重鎮は彼女の下着を下ろそうとしたが、本人が拒んだ。するとマルシアーノ氏はペニスを露わにしたという。ロドリゲスさんは「ショックを受け」、「まともに拒んだら、身体的にも仕事上でも何をされるかわからないという恐怖から」、強制的にオーラルセックスに応じたという。


アマンダ・ロドリゲスさん 2019年11月7日、カリフォルニア州ロサンゼルスにて(PRESLEY ANN/GETTY IMAGES)

ロドリゲスさんはGuess?モデルとして成功したが、マルシアーノ氏から性的暴行を受けたことを告発すると、すぐに仕事をほされた。告発したためにキャリアを台無しにされたと本人は考えている。

「私がされたことを公表したことが、キャリアに大きく響きました。当時2人のエージェントから、一体どうしたのかと聞かれました。何かおかしいと思ったんでしょうね。打ち明けるのは怖かったんですが、エージェントが詮索を続け、自分たちは知る立場にいると言い張るので、打ち明けても安全だろうと思ったんです」と彼女は胸の内を語った。

だが決して「安全」ではなく、その後すぐに契約を打ち切られたそうだ。

「表向きは、『依頼人との和解しがたい問題』という言い分で切られました」と彼女は言い、「心無い中傷を受けたようでした。まるで不意打ちでした。傷口に塩を塗られたようなものです。自分が罰せられているような気分になりました」

ロドリゲスさんとの契約解消について、モデル事務所newMark Modelsのジュールズ・ニューマーク社長は「(現役か否かにかかわらず)モデルや業者についてのコメントは控える」と述べた。

ロドリゲスさんは2021年にマルシアーノ氏とGuess社を提訴し、その後和解した。複数の女性がセクハラやレイプなど数々の性的不適切行為を訴えているにもかかわらず、マルシアーノ氏は今もCEOとして健在だ。スーパーモデルのケイト・アプトンも、18歳の時にスキャンダルまみれの重鎮から痴漢行為や嫌がらせを受けたと主張している。

マルシアーノ氏の広報担当者エリック・W・ローズ氏は数々の性的不適切行為の容疑について、「マルシアーノ氏はこうした訴えを全面的に否定します。訴えがあったのは何年も前で、すでに解決済みです」とローリングストーン誌に語った。


20217年6月5日、カリフォルニア州ロサンゼルスのFIDMミュージアム&ギャラリー・オン・ザ・パークで開かれたGuess社創業35周年展でスピーチする、ファッションデザイナー兼Guess?社創業者のポール・マルシアーノ氏

一方でロドリゲスさんは、業界復帰が難しいと感じている。

「声をあげてからと言うもの、以前のように仕事をもらうのが難しくなりました。告発する前は定期的にしょっちゅう仕事が来ていましたが、あんなことがあったせいで、今では明らかにいくつか地元の事務所から差別のような扱いを受けています。今の事務所にはとても感謝しています」

さらにロドリゲスさんはこう続けた。「それが理由で、私は名乗り出て告発するのを恐れていたんです。私たち(モデル)が思い切って名乗り出ると、疑いの眼で見られ、屈辱を受け、口封じされ、のけ者にされて批判される。ある意味、口を閉ざして見て見ぬふりをしながら生活するほうがずっと楽です。声をあげれば生計を失うかもしれないんですから。もう二度と使ってくれないブランドも出てくるでしょう」。

Akiko Kato

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