清春と大森靖子が語る、言葉へのこだわり、才能と余韻の話

「母音で歌いやすさが決まる」

―大森さんは来月から『KILL MY DREAM TOUR 2023』がスタートする中で、そのツアーでもバンド編成、大森さん+鍵盤、舞踏、一人での弾き語りのスタイルでライブを予定されていますが、現在ライブにおいて意識してやっていることは何ですか? また、去年10月にアルバム『超天獄』をリリースされましたが、直近の作品での言葉の選び方はどんなことを意識していますか?

大森:もともと弾き語りでライブ活動を始めたので、弾き語りで普通にいい曲を作って、5分ぐらいのバラードとかを作って、30分ぐらいのライブで聴いてもらおうと思うと、「めちゃくちゃいい声」とか、「めちゃめちゃ綺麗」とかじゃないともたないなと思ってた。でも、別にめちゃくちゃ声がいいわけでもないので、言葉の組み合わせで、例えばこの言葉が隣り合ってるとおかしいっていうのを繋げるようにずっと工夫していくのから始まって、今もそれは意識しています。あとは、ライブの場数を踏まなきゃっていうのが気持ちとて強かったんです。それで、もう4、50代の人くらいの本数はやったから(笑)。そのライブの経験の中で、対バンして、お互い影響し合って、“この人とだからこういう自分が出せたよね”ということや、“この人だから出せるぞ”っていう感じがあるので、わりと対バンはしたいと思ってるんです。でも、いざ誰とやりたいかなって思った時に、あまり同世代とやることがないので相手が思いつかなくて。それでライブ制作の方がすごく考えてくださって、清春さんいいんじゃない?って。できるんですかね?みたいな感じでした。

清春:僕もそうだよ。やってくれるのかな?っていう感じでしたよ。



―不思議な、そして異色の対バンですけど、何かとんでもないものが生まれる気がしますし、みんな観たい対バンだと思います。

清春:そもそも僕自身、あんまり対バンしてないもんね。ここ最近だと去年SIONさんと対バンしたぐらい。なかなか女性とはないですよね。

―当日の編成はお二人ともなんとなくイメージしてるんですか?

清春:うちは、辻コースケと栗ちゃん(栗原健)、畑崎(大樹)さんかな。楽器でいうとサックスとパーカションとギター。大森さんは?

大森:一人で弾き語りの予定です。

清春:ピアノの人と一緒の編成もいいですよね。

大森:そうなんですよ。少し考えます。

―編成も楽しみです。

大森:話していて思い出したんですが、渋谷のライブに伺った時に、帰り道ずっと“瑠璃色”って歌詞だけがすっごく残ってたんです。私は歌詞に“瑠璃色”って入れようって発想が絶対ないし、松田聖子さんの歌詞でしか聞いたことがなかったですし。瑠璃色かぁって。瑠璃色ってどんな色だろうってずっと思いながら帰ったのを覚えてます。

清春:「瑠璃色」って曲があるんですけど、そもそも歌詞を書く時にすごく言葉を調べるんですよ。言葉って普段使ったり、耳にしているものだけじゃなく、使われなくなった言葉もたくさんあるよね。あと、僕の場合は言葉の意味だけではなく、母音が大事なんです。母音で歌いやすさが決まるから。



大森:そうなんですよね。リズムにはまりやすいって言葉って思うと、ついつい同じ言葉になってくるかもしれない……。

清春:あと僕、嫌な子音もあって。“T”とか歌詞にあんまり入れたくなくてなるべく避けてるんです。あとは星の名前とか、花の名前とか、色の名前とか、いろいろ調べて、いいなって思うものをケータイに記録しておきますかね。おっしゃってくれた「瑠璃色」は原田真二さんの「CANDY」をオマージュした曲なんです。

大森:清春さんの鼻濁音ってすごいセクシーじゃないですか。その感じを、子音を自分で取り除いて作ってたんだっていうことに今お話しを聞きながら感動してました。

清春:子音が気に入らないっていうか、サ行とかをタイトにしていくと鼻が詰まっていく風に聞こえるんですよね。あと、マ行、ナ行もすごく気にしてますね。それから“ず”が“す”に聞こえたりとか、“ざ”が“さ”に聞こえたりとかも、いまだにすごく気にしてます。だからレコーディングが憂鬱(笑)。YouTubeの『街録ch』で大森さんのレコーディングの様子を見たんだけど、あ、こんなにすぐ録れるんだと思ってすごく驚いたんです。サラっと歌ってて。俺はこういうの絶対に無理だと思った。同じフレーズとか気に入らなかったら100回ぐらいやっちゃうからね(笑)。限界が来て、ソファーで寝ちゃうまでやっちゃいますね。ほんと気にしいなんで、サビの頭の一小節の一個の言葉を、何回も歌う。それだけで、下手したら2日とか。だから、あの早さにすごいなって思いましたね。

大森:気にしてないだけかもしれないです(笑)。

清春:そういう人もいるんだよね。CD聴いてて気にならない人。僕の思うその一人に大森さんは入ってますね。

大森:ピッチを合わせてみたりもするんですけど、違うなっていうか。合わせた方が、思い描いてたものと違うっていうのがあって。

清春:スピード感で歌う人だよね。スピードって言っても速いテンポじゃなくてね。スピード感で歌う人って、あんまり気にしないのかもしれないですね。長い時間歌ってきた結果、自然に自分で危ないところを察知するんだと思うんですよ。転ばないように歩いてるみたいな。大森さんの歌を聴いていて、そういうことをいつの間にか覚えたんだろうなって気がします。

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