清春と大森靖子が語る、言葉へのこだわり、才能と余韻の話

ライブで伝えるための強度の加減

―歌に関して、清春さんも変化ってあったんですか?

清春:僕は、最初はいわゆるビジュアル系だったので、歌は別に下手でもいいやと思ってたんです。歌よりコンセプトを大事にしてたんですよ。例えば、曲のタイトルとか、バンド名は漢字とかね。英語じゃなくて、ビジュアル系の人がやらないような漢字で表記して。それって黒夢がたぶん初めてだと思うんです。そういうコンセプト中心でもビジュアル系ってある程度いけるんですよね。ライブも演奏以外のパフォーマンスで話題になるみたいな。で、34か35歳でソロになって、ギター始めたのはそれからなんですよ。そしたら、だんだん歌が気になってきて。圧倒的に歌の力が足りてないっていう、本能的な弱さみたいなものにいっときぶつかるんですよね。真っ直ぐ声が出ないとか。うわーって大きな声で圧倒できないとか。で、僕もライブが多い方だったので、ソロでやってる中でバンドを再結成したりとか、爆音の人たちと演奏したり、繊細な人たちともやったりと、いろんな環境で歌ってたんです。その中で、ちょっとは歌えるなって思ってきたのが、ここ5年ぐらいですね。今年55歳なんですが、50歳ちょっと前ぐらいから、ちょっと歌に自信を持てるようになった。そうしたら聴いてくれる人や周りにいてくれる人種がちょっとずつ変わってきたという感じですね。フェスとか絶対出るタイプじゃなかったんですけど、ちょっとだけ声がかかかるようになってきて出るようになったり.

大森:声って劣化していくものかなって思ってたので、50からのほうが歌えることに希望が持てますね。

清春:あ、僕、キーを高くしてるんですよ。黒夢が復活した時も、半音とか一音全部上げてるんです。

大森:上げる? 年齢があがってキーを上げる方ってめずらしいですよね。

清春:そうやって歌に関してはがんばって進化させてるんですけど、世間では清春=黒夢とかサッズとかビジュアル系っていう昔のイメージのままで、僕の今の感じの歌を聴こうともしないんですよね(笑)。

―確かに、一旦ビジュアル系っていう言葉で括られると何をしてもそういう評価しかされない問題あってありますよね。大森さんも何とか系とかで括られたりとかすることってあると思うんですけど本人的にはどうですか?

大森:世代的にかもしれないですけど、“〜系”っていうふうに思ってくださっている方って、ネットで好きって言ってる方なので。ライブに来てくださってる方は、ずっとそのままだったりとか、ジャンルとか関係なくアーティストのライブを楽しんでくださる方ですよね。清春さんのライブに伺ったときもそういう印象でした。だから、SNSでの声だけが可視化されてるのかもしれないです。それが嫌だって思う時は、ネットを見なければいいやっていう感じです。

―真実はライブにあると?

大森:そうですね。質問があるんですけど、さっき周りの人が変わったって言ってましたが、何かきっかけがあったんですか?

清春:何でだろう……。なぜかだんだん歌が褒められ始めたんですよね。若いころは歌に自信なかったんで、総合的に頑張ってますってよく言ってたんですよ。歌だけではなくて、歌詞とか作曲とかパフォーマンスとか、総合的に見てほしいっていつも言ってたんです。歌を聴いてほしいって言うようになったのは、ここ10年以内ぐらい。それまでフェスによく出ているようなミュージシャンとあんまり繋がりがなくて。何なら別の星の人達だと思ってたし、フェス自体が遠い異国の砂漠で行われてるみたいなイメージだった。けど、一昨年TOSHI-LOW君がやっている「New Acoustic Camp」に出た時にCANDLE JUNE君が気に入ってくれて、観た後すぐに楽屋来てフジロック出てくださいって言ってくれた。それで翌年はフジロックに出たんです。僕の場合は、歌ってはいたし、場数は多かったものの、歌の開花が遅咲きだったと思うんです。ライブパフォーマンスとかライブでの場慣れとかは自信あるし、歌ってなくても立ってられるとか、そういうのはあるんですけど。歌を聴いてくれっていうような発想じゃなかった。自信がなかったから。だんだん研ぎ澄まされていく中で、どんどん課題が生まれてくるじゃないですか。で、その課題をクリアして、今がある。僕は大森さんって、堂々と歌ってるなって思うんですよね。どうなんですか? 歌ってる時の気分って。

大森:弾き語りで、セットリストを決めずに即興で出て行くので、ずっと今何が求められているかとか、今何を言えば刺さるとか、今こういう気持ちだけど、これを伝えるにはどういう強度でいけばいいのかとか、そういうことしか考えてないです。強かったらダメな時とかもあるじゃないですか。なのでそういうことをずっと考えてます。

清春:間とかは考えていないですか? 曲と曲の間じゃなくて、一曲の中で。わかりやすく言うと、スローダウンしたりとか。

大森:間も、取れれば取れるほどいいんですけど、それが自分のペースになったら、ただダルくなっちゃうんで。

清春:相手の空気を読みつつ?

大森:そういう気持ちで取ってますね。取ればいいってもんでもなくて、結構難しいです。

清春:客席を見てると、ファンの人、泣いてるもんね。

大森:そうですね。泣かせるっていう職業だと思うので。

―会場が大きくなると客さん一人一人の個性やエネルギーも違ってきますよね。どこに向けて強度を強めたり弱めたりするんですか?

大森:たくさんの人がいるところでも、あんまりこうだってしないようにはしてますね。何を持って今日は来る人が多いのかとかは考えますけど。でも多数決にもしたくないから、あの人がいる、あの人がいるっていうのを目視でやったりしてます。なるべくその人の生活を想像するようにしてますね。

清春:あとは空間支配ですよね。僕も種類は違うけど、そこは自信がある。もう会場の色が大森靖子になってますよね。もちろんワンマンだからそうなってるのかもしれないけど、ワンマンでもならない人もいるんですよ。それは別にセットや照明がどうこうとかじゃないじゃないんで。佇まいと、ムードでしかないというか。さっき言った余韻がムードだと僕は思ってるんです。ステージに出る前って余韻ってないじゃないですか。でも大森さんがステージに出て行った瞬間、すぐ余韻が出てた。あんまり見たことないんですよね。

―しかも、ここ最近はそういうアーティスト自体が減ってる気がします。

清春:乱暴な言葉だけど、強い人がいないですよね。

大森:立つだけで説得力みたいな人ですよね?

清春:時代なんだろうな。

―だから、大森さんが、その最後の世代だし、しかも稀有な存在なんでしょうね。

大森:そうかもしれない。下の世代とかを見てると、そうかもしれないですね。


大森靖子(Photo by Yoshihiro Mori)

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