J-POPの歴史「1993年と94年、セールス的な意味だけじゃないポップミュージック黄金期」



92年5月発売、尾崎豊さんのアルバム『放熱への証』から「闇の告白」。80年代の日本のロックの象徴の1人が尾崎豊さんでしょうね。彼は92年4月25日、26歳の若さでこの世を去りました。夭折の天才。最後のアルバムが『放熱への証』だったんですね。あのアルバムはいろんな捉え方ができるなと思って。デビュー10年目に差し掛かって、いっぺんいろんなつまずきを経験して、もう1回やり直したときに10代の頃の自分のことを20代になって表現しようとした、ある意味では10代の尾崎豊を20代の彼がコピーしてるみたいなアルバムに思えたんです。

でもこの「闇の告白」は10代で歌えなかったと思ったんですね。90年の2枚組の名作『誕生』というアルバムの中に「銃声の証明」っていう曲があって、テロリストを歌ってたんです。この「闇の告白」はテロリストっていう具体的な登場人物ではなくて、もっと俯瞰してる。たった1人で世間と戦ってるっていう、いろんな時代に通じる普遍的な歌だなと思ったんですね。今年は山上青年というのがこの歌に浮かんだりしました。

2004年の尾崎さんのトリビュートアルバムで、斉藤和義さんがこの曲を実に本質を表現して弾き語りで歌ってるんですが、ぜひそちらの方を聞いていただけたらと思ったりもしてます。尾崎さんが亡くなって、80年代が終わったと思ったんですね。そういうふうに思わせた出来事がもう一つあって。それは後ほどお話してみたいと思いますが、尾崎さんが影響を受けていた人の92年の名盤アルバムです。佐野元春さん、92年7月発売アルバム『Sweet16』のタイトル曲です。



1992年7月発売、佐野元春さんのアルバム『Sweet16』のタイトル曲。佐野さんのデビューは1980年。80年代の幕を開けたその人ですね。ストリートのロックシーンとして80年代を駆け抜けました。アルバム『VISITORS』『Café Bohemia』『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』。80年代後半の3枚は、ニューヨーク東京ロンドンとボヘミアンのように移動しながらアルバムを作ってました。

尾崎さんは、ステージで学校の話をしながら、「先生はやめろと言ったんだけど、俺はカセットテープでジャクソン・ブラウンやブルース・スプリングスティーンや浜田省吾や佐野元春を教室で聴いていたんだ、俺はやめなかった。みんなのロックンロールは好きかい?」と叫んでいた。

佐野さんは、90年代に入って『Time Out!』っていうアルバムを作ったんですね。1曲目が「ぼくは大人になった」でした。彼も30代半ばになって父親を亡くしたり、10代では味わえない経験があって、それを経てこの「Sweet16」が生まれたんですね。大人になった彼が改めて10代をテーマにしたアルバム。アルバムの中で「レインボー・イン・マイ・ソウル」って曲が僕は好きだったんですね。いわゆる佐野元春とはちょっと違うソウルっぽい曲で、「Sweet16」は佐野さんの原点のバディ・ホリーをやってるってことでこの曲にしたんですが、尾崎さんが、36、46、年齢を重ねて「15の夜」の、年齢版を作るときが来て欲しかったなと、改めて思ったりもしております。

いろんなバンドやアーティストが成長と変化を繰り広げて、音楽面で実を手にした人たちが出てくるわけですが、そういう典型的な例でしょうね。93年6月発売、THE_BOOMのシングル「島唄」。

Rolling Stone Japan 編集部

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