ブラーのデーモン・アルバーンが語る復帰作に込めた思い、サマソニと日本での記憶

今のデーモンがブラーに取り組む意味

―そもそも今回の楽曲自体はいつ頃から作り始めたのでしょうか?

デーモン:去年の秋に行なったゴリラズの北米ツアーの時から始めたんだ。そして1月にバンドに20曲差し出して、「これを聴いてくれ。これでニュー・アルバムができるかもしれないから」と言ったんだ。それまでは、(ニュー・アルバムのことは)誰にも言っていなかった。完璧に秘密にしていたんだ。「この中から曲を選んでくれ。それをレコーディングして、どうなるか見てみようじゃないか」と僕は言った。それから2カ月後、アルバムが完成したってわけだよ。



―前作『The Magic Whip』は香港でレコーディングされたものでもあったため、2014年の香港の反政府革命などの気風が反映されていました。

デーモン:ああ、あの頃、最初の大規模な抗議行動が起きて、弾圧が起きた後のちょうど嵐の後の静けさといった感じだった。あれ以来僕は香港には行っていないけど、香港の人達がみんな無事でいることを願っているよ。あそこの文化はとても興味深くて重要だから、保持されないといけない。

―ですが、今作、歌詞においては非常に非常に重く、ダークな側面が強く現れています。

デーモン:この世界はダークで重いから、それが反映されているんだ。

―今回はテーマを設定してから歌詞を書かれたのでしょうか?

デーモン:例えば、「The Narcissist」には“If you see darkness, then look away(闇を見かけたら、目をそらすんだ)”というくだりがある。だから、聴いてくれた人がこのアルバムをダークだと思ったのだとしたら、聴かなくていいよ。もう一度聴かなくていい。でも僕は、かなり統一感のある(unifying)アルバムだと思っているんだ。感情面では、客観的にとらえた場合、かなりアップリフティングだと思う。プレイしていて僕が常に楽しんでいるものだ。ブラーでは、特に楽しさと悲しさが並んでいる。これは、「メランコリー」というカテゴリーに属するのかな。

―ええ、それはブラーの一貫した特徴だと思っています。あなたはそんな今作を“余震の記録”と位置付けているそうですね。その“余震”というのは何の象徴なのでしょうか?

デーモン:大変動が起きた時、自分はそれを体験するわけじゃないし、リアルタイムでそれに影響を受けるわけでもないよね。自分はその瞬間にいるんだから。そのことについて考えられるのは後になってからで、そこで自分がどう変わったかを理解できるんだ。世界がどう変わり、自分の感情がどう影響を受けたかは後になってからわかるけど、その時に理解するのは不可能だよね。何であろうとも、その時はサバイバル・モードになっているんだから。そういう意味での“余震”ということだよ。

―それをソロでもゴリラズでもなくブラーで表現していることには大きな意味があると思います。ゴリラズでの活動だけでなく、2021年にはアンビエント色の強い異色のソロ・アルバム『The Nearer the Fountain, More Pure the Stream Flows』もリリースしていますし、ビッグネームから若手まで多くのアーティストと共演、交流をしているあなたが、多くのアウトプットを持つ状態の中で、その“余震”をブラーで伝えること……今のあなたにとってブラーはどのような位置付けになっているのでしょうか? 

デーモン:ブラーはもちろん、平たく言うと木の根元だ。安易に帰るようなところじゃない。決して甘んじてはいけないことがとても重要なんだ。不必要に利用するには重要過ぎる、貴重過ぎるんだ。

Translated by Mariko Kawahara

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE