ブラーのデーモン・アルバーンが語る復帰作に込めた思い、サマソニと日本での記憶

現代社会の困難と向き合った「寓話」

―これは私観でしかないのですが、『The Ballad Of Darren』というタイトルさながらに、このアルバムは遙か遠い未来から見た、バラッド……すなわち寓話、伝承物語として作られたのでは?と感じました。

デーモン:なるほど、それもいいね。

―例えば「The Narcissist」はバック・ボーカルがキーワードやフレーズを繰り返す、いわばコール・アンド・レスポンス・スタイルとなっていて、古くからある音楽や詩のバラッドの形式を踏襲していることもそう感じる理由の一つです。

デーモン:なるほどね。僕にとってバラッドは、物語なんだ。君が言うように、寓話かもしれないし、おとぎ話かもしれない。つまりは物語なんだよ。ダレンは実在するものの、彼の名前はみんなを代表している。全ての人に当てはまるんだ。ちなみに、「ダレン」というのは僕の友達の名前。ダレンという男がいるんだよ。彼は、最初からこのバンドの仕事をしてきたんだ。コアなファンは、彼のことを「スモギー(Smoggy)」として知っている。ブラーのファンならダレンが誰だか知っているし、スモギーと呼んでるよ(笑)。つまり、ダレンという実在するけど、誰でもある人の物語ということなんだ。



―一定の寓話の引用も実際に見受けられます。「Avalon」は、中世の騎士、アーサー王物語の舞台としても知られ、ブリテン島にあるとされる伝説の島ですよね?

デーモン:そう、これまた寓話だ。“What’s the point in building Avalon if you can’t be happy when it’s done?”というくだりがあるけど、これは「一度夢を抱いたら、それを叶えるために夢の中で生きないといけない」ということなんだ。拒むことはできないんで、自分にとって正しい夢を抱くよう心がけないといけないんだよ。あと、いつの時代でも戦争が迫ってきているという注意喚起のメッセージでもある。

―はい、戦争に向かう鼠色の飛行機というような歌詞も織り込まれていますよね。

デーモン:そう。“Grey painted aeroplanes fly on the way to war”だね。いつ何時でも、田園の平和がどこかの上空を飛んでいる輸送機によって破壊され得るということだよ。

―ちなみに、アヴァロンはイギリス最初のキリスト教会となった場所という伝説もあり、その場所は今日のグラストンベリーではないかとも言われていますね。

デーモン:ああ、それもアーサー王伝説と関連しているんだ。彼の宮廷があったとされるところだよ。理想郷なんだ。

―「The Everglades (For Leonard)」は中でも極めて重い歌詞です。この中には“The Everglades”という単語が登場します。アメリカはフロリダにある湿地のことで……。

デーモン:そうだね。

―18世紀初頭にイギリス人の測量士が「River glades(川の沼沢地)」と呼んだのを聞き間違えて「Everglades(広大な沼沢地)」と地図の上に記載したことが由来だそうですが……。

デーモン:へえ、それは知らなかったな。ありがとう。

―底のないぬかるみなのかもしれないし、生き存えることができる水源にもなりうるこうした沼沢は、何を意味するものなのでしょうか?

デーモン:そうだな……“We are suing God with change”というくだりがある。これは詩であって、必ずしも文字通りではないんだ。詩的なものなんだよ。僕たちがいかに無力であるかというアイディアについてだ。Evergladesはとても美しくて穏やかな場所に思えるけど、同時に命取りの場所でもある。簡単に迷い込んでしまうんだ。どちらにもなり得るということだよ。そう、いつだってね。

―アルバム1曲目「The Ballad」は“I just looked into my life(私はただ自分の人生を見つめ直した)”というフレーズで始まります。“時代を変えられないことに気づいた”というある主の諦観も覗かせる曲をアルバムのオープナーに置いたことの理由、この曲が現在に問う意味を教えてください。

デーモン:これはまさに“余震(aftershock)”を見つめて、それが何であれ、その反響についての話し合いを始めているってことなんだ。だから……あまり特定はしたくないんだよ。そうすると、人々に思い描く余地を与えなくなるからね。

Translated by Mariko Kawahara

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