ジョージ・ハリスンを称える『コンサート・フォー・ジョージ』が不朽の名作になった理由

 
「最大の見せ場」と「影の功労者」

存命の友人たちで活躍が光るのは、やはりジェフ・リンだ。ほとんどビートルズを崇拝していた60年代、アイドル・レースの一員として活動していた時期に、運良く『ホワイト・アルバム』のレコーディングを目撃した貴重な体験の持ち主。ジョージの『クラウド・ナイン』にプロデューサーとして携わった後、トラヴェリング・ウィルベリーズで共に活動、そしてビートルズの復活シングル「フリー・アズ・ア・バード」をメンバーと共同でプロデュースするというミラクルを経験している。“外の血”も積極的に試したジョージによってビートルズ・ファミリーの一員に迎えられたことに対する感謝の念は人一倍強いはず。ボーカルを取った「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」や「ジ・インナー・ライト」以外でも脇役としてダニーと共にサイドをしっかり固め、全体のまとめ役として機能しているのが一目瞭然だ。



エリック・クラプトンは「恋をするなら」でも「ビウェア・オブ・ダークネス」でも、彼の個性は普段よりかなり抑え、ジョージが残した楽曲に正面から向き合っている印象。特に「恋をするなら」での歌い方は、ここまで素直にビートルズ・ナンバーを歌う面もあるのか、と驚かせてくれる。ジョージに対するリスペクトを、“再生”という視点に徹することで示したかったのかもしれない。クラプトンはこの日の演奏について、DVDのブックレットで「僕はジョージと彼の音楽への愛をみんなと分かち合いたかった。彼のためというより自分自身のためにこのコンサートを主催したんだよ。追悼ライブという形で表現したかったんだ」と、率直にコメントしている。

そしてハイライトになるのは、やはり“元ビートルズ”たち。リンゴ・スターは、まずソロ作『リンゴ』に収められたジョージとの共作曲「想い出のフォトグラフ」を歌う。1971年に二人がカンヌ映画祭へ赴いたときの船上で一緒に書き始めたという、シンプルだが心に響くメロディを持つこの曲は、全米シングル・チャートNo.1を獲得。オリジナルのセッションに参加したジム・ケルトナーが後ろで叩いている点も感慨深いし、「(書いた当時とは)歌詞の意味が変わってしまったけど」というリンゴのMCも涙を誘う。

続いてリンゴが歌うのは「ハニー・ドント」。この曲を選んだのは、ジョージのお気に入りで交流もあったカール・パーキンスのカバーだからだろう。バックにはビリー・プレストンもいるし、アルバート・リーが弾くギター・ソロもご機嫌。リンゴに促されてピアノ・ソロを弾くゲイリー・ブルッカーの姿も見られる。

そして最大の見せ場を作るのは、もちろんポール・マッカートニー。クラプトンとの共演でイントロのピアノをポールが弾く「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」は“本物感”が抜群で感動的だし、『ゲット・バック』セッションの模様が思い浮かぶ「フォー・ユー・ブルー」、そしてポールのボーカルが意外なほどマッチした壮大な「オール・シングス・マスト・パス」(クラウス・フォアマンがベース!)と、超強力なパフォーマンスが続く。そんな中、ジョージとのエピソードを話してからウクレレの弾き語りで始まる「サムシング」は、何気ないようで故人との結びつきを最も強く感じさせ、落涙を禁じ得なかった。ポールがアコギに持ち替えてバンドでの演奏が始まってからはクラプトンもボーカルを取り、そこにビリー・プレストンのオルガンが優しく寄り添う。そしてドラムセットに目をやると、そこにはリンゴの姿もある。



ウクレレはジョージの遺作『ブレインウォッシュド』にもフィーチャーされていた、彼を象徴する楽器のひとつ。ショウの最後をジョー・ブラウンの「夢で逢いましょう」で締め括る構成はやや意外だが、自宅でリラックスしてウクレレを弾いているときのジョージの姿がよみがえってくるようで、なかなか味があるエンディングだ。熱心なファンなら、ジョーが『ゴーン・トロッポ』『ブレインウォッシュド』に客演していたことを覚えているだろう。

いかにも英国人らしいゲストとして、モンティ・パイソンのスケッチがフィーチャーされていることも強調しておきたい。ジョージが運営していたハンドメイド・フィルムスの助力によって映画『ライフ・オブ・ブライアン』が公開までこぎつけたのは有名な話。2002年の時点では存命だったテリー・ジョーンズは2020年に、そして音楽担当メンバーとして登場したボンゾ・ドッグ・バンド〜ラトルズのニール・イネスも2019年に、それぞれ鬼籍に入ってしまった。

コンサートを振り返って、リンゴは「ジョージはこの晩、ステージにいるみんなと一緒にいた」とコメントしている。言い得て妙で、これだけ豪華メンバーが顔を揃えていても、聴後感として残るのは何よりもジョージが書いた柔和で温もりのあるメロディ。そうなるようジェフ・リン、レイ・クーパー、オリヴィア・ハリスンら制作陣が配慮した跡も窺える、コンセプトにブレがない優秀な音楽ドキュメンタリーだ。

また、トム・スコット、ジム・ホーン、アンディ・フェアウェザー・ロウや故ジム・キャパルディ(元トラフィック、2005年没)といった有名ゲストたちに囲まれて、ジョージのトレードマークであったスライド・ギターを違和感なく弾きこなしたジェフ・リン人脈のミュージシャン、マーク・マンの巧みなプレイにも拍手を送りたい。知名度は彼が最も低いはずだが、随所でジョージの味を存分に感じさせる名演を見せており、本作の影の功労者としてぜひ記憶してほしい人だ。

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『コンサート・フォー・ジョージ』
7月28日(金)〜TOHOシネマズ シャンテほか公開
© 2018 Oops Publishing, Limited Under exclusive license to Craft Recordings
公開作HP:https://www.culture-ville.jp/concertforgeorge


『コンサート・フォー・ジョージ』公開記念冊子(来場者特典)
・8Pカラー 表紙:本作アートワーク/裏表紙:本秀康氏描き下ろしイラスト
・寄稿(水原健二・藤本国彦)・作品紹介


ピーター・バラカン トーク・イベント
2023年7月29日(土)19:00〜上映後、アフター・トーク
会場;TOHOシネマズ シャンテ
開映:19:00 トークショー:20:55予定(約30分)


トーク・イベント【第2弾】
2023年8月3日(木)TOHOシネマズ シャンテ
藤本国彦さん(ビートルズ研究家)x本秀康さん (イラストレーター) 対談イベント
19:00〜上映回の上映後にアフター・トーク 20:55スタート予定(約30分)

 
 
 
 

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