ソニックマニア総括 ジェイムス・ブレイクらが提示した「深夜ならではのカタルシス」


フライング・ロータス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


フライング・ロータス(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【Flying Lotus】23:50~1:00

再びMOUNTAIN STAGEに移動してフライング・ロータス。この夜、もっとも度肝を抜かれたのが彼のライブだ。

まずは強烈なサブベースでフロアを圧倒。間髪入れずに映画『ツインピークス』のテーマソングのリミックスで幕を開け、そこから最新作『Yasuke』のトラックを中心に幻想的な世界観を構築。フライング・ロータスの背面とDJブース前面、そしてブースの左右に設置されたスクリーンをフルに使った立体的なビジュアル表現が、サウンドのムードを何倍にも増幅させる。そしてデンゼル・カリーが参加した「Black Balloons Reprise」を皮切りに、ケンドリック・ラマーやアンダーソン・パークをフィーチャーしたラップトラックを連続投下。一気にギアが上がる。ファンカデリック「(Not Just)Knee Deep」やケンドリック・ラマー「Wesley’s Theory」も織り交ぜて、さらにボルテージを上げていく。

驚いたのはここからで、なんとセット中盤はハウシーなDJセットに移行。筆者はドリンクを買うために5~10分ほどステージを離れたのだが、その間にDJセットに変わっていたので、一瞬何が起きているのかわからなかった。あれ、フライロー、もう終わったの?と思っていたら、「もっとダンスしたいか?」と客を煽るフライング・ロータスの声が聞こえる。一体どういうことなのか? アンジェロ・フェレーリ&ムーン・ロケット版の「From: Disco To: Disco」やローンの「Blue Moon Tree」でフロアを熱狂させるフライロー……ややシュールにも感じられたが、しっかりと観客の心をつかんで盛り上げていた。

最後はサプライズで、しかし誰もが待ち望んでいたサンダーキャットをステージに招いて共演。サンダーキャットの生ベースと歌声が入ると、グッとサウンドの立体感が増す。グルーヴも二割増し、三割増し。なにより気心が知れた間柄でのセッションゆえのリラックスしたヴァイブが心地よい。両者ともこのセッションを心底楽しんでいる様子で、終始笑顔を絶やさない。気づけば「Getting There」「Black Gold」「Dragonball Durag」「Them Changes」と4曲も一緒にプレイした。ぜひ次はフルセットでの共演ライブが観てみたい。



ジェイムス・ブレイク(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)


ジェイムス・ブレイク(©SUMMER SONIC All Rights Reserved.)

【James Blake】1:30~2:40

続いてMOUNTAIN STAGEに登場したジェイムス・ブレイクは、この夜のハイライトのひとつだった。ソニックマニア直前インタビューでも公言していたとおり、セットリストに9月リリースの新作からの曲は無し。だが、ライブ自体はすでに新作モードに切り替わっていた。つまり、いつになくダンスフロアのエナジーを直接的に反映させたパフォーマンスになっていたということだ。

この最新モードがわかりやすく表出していたのが、アンセム「CMYK」からそのままアントールド「Stop What You're Doing (James Blake Remix)」になだれ込む怒涛の展開。インタビューでは「新作に影響を与えたダンスミュージックをやる」とも話していたが、この辺りはまさにそうだろう。いつものように3人編成のバンド演奏だが、DJのように曲を繋いでアグレッシブなダンスビートを延々と打ちつける様は、完全にクラブのテンションだ。ほとんどマッシュアップのようだった「Choose Me」~「Coming Back」は音源とは比べ物にならないほど激しいアレンジに生まれ変わっていたし、ライブでは定番になっている「Voyeur」後半のテクノパートもいつになくハードで荒々しかった。

もちろんライブはハードでダンサブル一辺倒ではない。セット中盤にはスタンドマイクで歌うパートが用意されていて、ブレイクの繊細な歌をメインに聴かせる。今回のライブで際立っていたのは、しっとりと歌声を届けるパート=静と、激しいダンスミュージックのパート=動の強いコントラストだ。そのように明快な緩急がついていたからこそ、どちらのパートも生きていた。終盤にブレイクがスポットライトを浴びながら弾き語りしたフランク・オーシャン「Godspeed」のカバー、そしてそれに続いて披露された「Retrograde」が息を飲むほど美しく、感動的に響いたのが忘れられない。

内省的なシンガーとマッドなプロデューサーという極端な二面性をライブで表現し、そのコントラストによって両極の魅力を最大限に引き出すことに成功した今回のライブは、ブレイクのキャリアでも屈指の出来だった。


【Autechre】2:40~3:40

ジェイムス・ブレイクの余韻に浸る間もなく、SONIC STAGEに移動してオウテカ。オウテカのライブと言えば、漆黒の闇の中、無機質でストイックで緊迫感に満ちた電子音が飛び交うというもの。幕張メッセでこの暗闇をどのように実現するのかと思っていたが、なんと巨大な暗幕でSONIC STAGE全体を覆っている。徹底したこだわりようだ。入場規制の看板を横目に、暗幕の隙間からステージに吸い込まれると、まるで異世界にいざなわれるような高揚感を覚える。

暗闇の中で激しく乱れ飛ぶ電子音。当然VJなどなく、オウテカ本人の姿も見えないので、観衆はひたすら音に集中してついていくしかない。オウテカのライブは一切の予定調和を許さない。だから全体の展開にわかりやすい流れは見つけられない。静謐な空間に電子音が飛び交っていたと思ったら、突如、暴風雨のような激しさへと移行する。ようやく規則的なリズムが浮かんできたと思ったら、肩をすかすように不規則になったり、違ったパターンに展開したりする。一時たりとも観衆を安心させない、緊張感とスリルに満ちたライブ。普通であれば脱落者続出でもおかしくないが、深夜3時過ぎにこの場に集まっているのは熟練のオウテカ主義者たちなのだろう。通常なら踊れるはずがないリズムに喰らいつき、歪に体を動かしている。疲れて座っている人の中にも、上半身だけは激しく揺らしている人もいる。不思議とそのように体を動かしていると、不規則な電子音の中にも自分なりのグルーヴを見つけたような感覚になってくる。いわばオウテカズ・ハイだ。ソニックマニアだろうとどこだろうと、オウテカはオウテカ。一切のブレは無し。漆黒の世界にストイックな快楽が広がっていた。

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