SKY-HIが語る、「刃牙」シリーズと「THE FIRST」の共通点

マッチョイズムを更新したい

ー〈夢を越えろ〉というフレーズも印象的で、「Dream Out Loud」のリリースタイミングでØZIと対談をしてもらったときに、「最近の日本のヒット曲はペシミスティックなものが多いから、ちゃんと『夢』を歌いたい」という話をしてくれたじゃないですか。この曲にもそういう背景が影響していると言えますか?

SKY-HI:それは多分あんまり関係なくて、勇次郎である以上ペシミスティックになる余地がなかったっていうのがでかい気がする(笑)。でもヴァイブスとして、露悪的なものとペシミスティックなものはやりたくないというか、「可愛くてごめん」とかも結構露悪的じゃないですか。別にそれが好きとか嫌いじゃなくて、自分がやる仕事じゃないなっていうのはすごく思ってます。まあ、難しいんですけどね。ヒップポップに露悪的な成分があるのも事実で、そういうアーティストを見て素敵だなと思うこともたくさんあるし。ただね、まだもうちょっと綺麗ごとから逃げたくないっていうのはあります。それはBMSGとして逃げたくない。ステージ上でマイクを持って歌う立場だからこそ、綺麗ごとを本気で言いたいし、その積み重ねで世の中の空気が変わるのを知ってるので、陳腐じゃない綺麗ごとを言い続けたい。こういう話を実際どのくらいしたかはわからないけど、この前のライブのMCでShotaが似たようなことを言っててちょっと感動しちゃったんだよなあ。「SKY-HIっぽいことを言ってる」って感じがしなくて、Shota感がすごいあった。Coreもそうで、普段みんなで話してるようなことをCoreが言ったとして、トレース感がないんですよ。特にステージ上では、自分のものにしてからじゃないと口に出さない人たちだし……あ、このスプリットシングル、俺とCoreでもできたかもしれない(笑)。

ー親子感で言うと、日高さんとShotaさんもよさそうですけど(笑)。

SKY-HI:Shotaとは『ちいかわ』とかでやりたいっすね(笑)。Shotaと俺は絶妙なところがあって、俺の方が先輩で、俺が引っ張っているが、親はどっちかっていうとShotaの気もする。Shotaの悩みを聞いていると見せかけて、俺がShotaに甘えている節もある気がするし。ただビーファにしろShotaにしろライバル的なヴァイブスは存在し得ないから、そこが刃牙と勇次郎の関係性との違い。でも俺が勇次郎でCoreが刃牙ならありかもなあ。しかもその場合ライティングもCoreがやるでしょ。それでもう一枚作りましょっか(笑)。

ー「Salvia」に関しては「刃牙」の曲でもありつつ、あくまでBE:FIRSTの曲として成立することを強く意識したというお話でしたね。

SKY-HI:言葉遣い含めて意識した記憶がすごいあるんだよな。あとだいぶRYUHEIに頼りました。RYUHEIとSHUNTOに頼った。少しでも親子性を担保するために。RYUHEIとSHUNTOには少年性があるから、その素質に助けてもらったところもあるので、RYUHEIが言って似合う言葉、SHUNTOが言って似合う言葉から書き始めさせてもらったっていう感じがありますね。あと刃牙の言葉遣いをすると、オラッとするじゃないですか。それは2023年のボーイズグループとしてかっこいいのかなっていう。ボーイズグループが担うべき社会的意義があるとして、マッチョイズムではないのは確かじゃないですか。そこが本当に難しくて。『範馬刃牙』の魅力がマッチョイズムだけでないのも確かだけど、絵柄も含めてマッチョ性が存在するのは確かで、そこは大変だったなあ。



ーでも途中の話にもあったように、曲だけを聴くとむしろ女々しさも内包した異性愛の曲にも聞こえるわけで、曲調も含めて見事にバランスを取っているなと感じます。

SKY-HI:そうですね。個人ものの歌よりグループものの歌の方が助かるのは、バッファを持ちやすいんですよ。ソロアーティストが歌うと抽象的になりかねない言葉でも、グループだと歌う人と場所を変えるだけで、意味が勝手に出てくることがすごくある。あと同じ声でヴァース、プリフック、フックって行ったときのダイナミクスと、メンバーが変わることで出てくるダイナミクスの違いはやっぱり存在して、後者の方がドラマチックになりやすい。そういういろんな要素に助けてもらって書きました。

ー両方の曲タイトルを花の名前にしたのはどんな経緯だったのでしょうか?

SKY-HI:ここまで話したような複雑なものがいっぱい絡み合った上で、楽曲をドンと提示したときに、タイトルはこの2曲が対比してるんだっていうことを象徴できる固有名詞である必要があったのと、あとはやっぱりマッチョイズムとの距離とか、自分が書くべきことをいろいろ考えて……これだわって。

ー確かに、マッチョイズムの対極としての「花」というモチーフはよくわかります。ただサラセニアは食虫植物の名前で、そこは勇次郎らしさもありますね。

SKY-HI:食虫植物って超勇次郎っぽいですよね。勇次郎が人を屠るのって、本質的じゃないですか。顕示欲でも上昇志向でもなく、ただ強く生まれているから、弱者を屠るのが強者の仕事というか。食虫植物も別に「俺が植物の王になる」っていうつもりで虫を食ってるわけじゃないわけで(笑)。そういう動物的正解をしっかりと言葉で表していくのが勇次郎で、あの人はすごく哲学家なんですよね。

ー「マッチョイズムとの距離感」というのはすごく興味深いテーマだし、大事なポイントだと思ったんですけど、やっぱり「刃牙」シリーズのファンは基本的には男性が多くて、今回の曲はこれまで以上に男性に聴かれる可能性が高いわけじゃないですか。その意味合いについてどう考えているか、最後に聞かせてもらえますか。

SKY-HI:この前、前田裕二がラジオに来てくれたときに、まさにマッチョの話になったんですけど、社会的意義が生まれたときに、やっぱりアンチマッチョな方向に考えを持ってかなきゃいけないとは思う。ただ、いわゆるマッチョイズム、上昇志向、強さこそが正義、稼いだ人が正義っていう考え方と距離を置いたとて、上昇志向や向上心の中にも健全な意識が存在してる気はして。もともとヒップホップカルチャーで育った人間からすると、あれなんてマッチョミュージックと言っても過言じゃない部分もあって、特に一昔前はめちゃくちゃそうで、それに憧れた自分がいたことも事実で……で、最近の新しいファンの子の中に、成功者になりたい大学生くらいの男の子が増えてきてるのを見ると、鼓舞してあげたい気持ちにはやっぱりなるんですよ。これまでは若いラッパーに対してしか思ったことなかったけど、若い世代全体に対して鼓舞したい気持ちがある。あと最近すごく意識してるのが、ちょっと前は「今の日本の状況がヤバい」っていうのが社会の共通認識になってなかった気がして、どっちかっていうと自分は警鐘を鳴らす方の立場として発言やタイトル、『JAPRISON』ってアルバムを作ってるぐらいなんで、そういう意識の方が強かったんだけど、いまは共通認識が「日本やべえぞ」になってる感じがすごいして……でもだからこそ、「こっからいけるぞ」というかね。

ーヤバい状況だからこそ、実はチャンスなんじゃないかっていう。

SKY-HI:そう、「ヤバいからこそこれはチャンスなんじゃね?」の旗を持ちたいっていうのはすごく意識してる。それはれっきとした社会意識で、マッチョイズムも内包したものにはなるんだけど……そうか、マッチョイズムを更新したいんだ。誰も傷つけない、清潔な、高潔なマッチョイズムを生み出したい。それが今の社会善の気がするし、その強さは確かに今の日本に必要な気がする。「高潔なマッチョ」って言葉にするとちょっと面白いですけど……でも勇次郎がまさにそうですよね。今必要なのはそういうことかもしれない。


Photo by Mitsuru Nishimura

<INFORMATION>


SKY- HI / BE:FIRST
「 Sarracenia / Salvia」
エイベックス
配信中
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