ジョン・バティステが語るワールドミュージックの再定義、多様な音楽文化をつなぐ秘訣

 
Adoとアジアへの興味、多様な音楽文化をつなぐ秘訣

―『World Music Radio』ではNewJeansの参加も話題ですが、過去にもアジア人が書いた曲を録音していますよね。あなたの音楽とアジアの関係について聞かせてください。

JB:アジアのアーティストによる音楽は何年も前からリスナーとして聴いてきたし、コラボレートもしているよ。最近発見して、よく聴いているフェイバリットの一人がAdo。

―え⁉️

JB:知ってる?

―もちろんですよ。

JB:最近のお気に入りなんだ。僕がまだ幼い頃、家族で神戸にツアーで訪れたことがある。僕はメロディカ(鍵盤ハーモニカ)も演奏しているけど、最初のメロディカは父が日本で買ってきてくれたものなんだよ。あの楽器は僕にとって自分の一部みたいな気がしている。それだけでなく、子供の頃はかなり熱心なゲーマーだったので、ゲーム音楽のスコアからの影響も大きいんだ。下村陽子、植松伸夫……実際、そういったゲーム音楽の作曲家たちが一番最初に影響を与えてくれた人たちだった。だから僕はアジア、特に日本とは面白いつながりがあるんだよ。

もう一人、アジア人でコラボレートしたのは第一世代の中国系アメリカ人であるコリー・ウォン。彼との作品『Meditations』で、グラミーのニューエイジ・アルバム部門にノミネートをされたんだ。他にも、自分でもなぜなのかわからないんだけど、キャリアを通じて何度か、そういったアジアとの接点がある。だから10月、初めて日本に行ってパフォーマンスできるのが本当に楽しみなんだよ。


「Green Hill Zone」(ゲーム『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の楽曲、作曲はDREAMS COME TRUEの中村正人)を演奏するジョン・バティステ(2018年)

―アルバムにはシャソールが参加した、その名も「Chassol」という曲もあります。鳥の鳴き声や人の喋り言葉を鍵盤に置き換えるパフォーマンスでも知られていますが、彼は「音」と「音楽」を分けていない音楽家だと思います。彼を起用したのはあなたが「ポップ」の定義を拡張しようとするだけでなく、「音楽」に対する認識をより自由にしようとしたかったのかなと思ったんですよね。

JB:その通りだよ。シャソールはいろんな意味で僕のmusical brotherだ。彼は従来の意味での音楽の境界線にとらわれることがない。でもそれをやれるのは、すべてを知っているからだ。知っているからこそ、曲げられる。そこに存在するルールを知っていれば、ルールを変えたり、挑んだり、再考察できるし、場合によっては無視することもできるんだ。そこまで音楽を学び、熟知している人間ってあまりいないから、僕らはすぐに通じ合った。クラシック音楽からジャズまで、フォークもロックも……学んだ音楽の知識を使って、人が思うポピュラーミュージックの既成概念、もしくはアバンギャルド・ミュージックの既成概念を広げる。どちらか一方ってことじゃないってことさ。最も理解が難しいと思われてるアバンギャルド・ミュージックも、最も大衆的だと思われてるポピュラー・ミュージックも、その間にある全ての音楽も結局は一緒。そんなふうに捉えているミュージシャンとは、なかなか出逢えないよ。




―キューバ音楽やジャズのリズムの中には「トレシージョ」と呼ばれるリズム単位があります。これは世界中の音楽にも入っていて、アフリカ、ヨーロッパや中東、アジアの音楽の中に見られるものです。トレシージョを例に出しましたが、一見、別々に存在している音楽のなかに実は同じ構造が入っていることは多々あることです。あなたの音楽が多様でありながらも、なぜだかまとまりのあるように感じられるのは、音楽の歴史や構造を深く探求して、その中にある共通点や差異を捉えているからだと感じるのですが。

JB:イエス! 実はうまくやるためのちょっとしたコツがあるんだ。それはコンピューターで言うなら「コード」ってことになるんだけどね(笑)。『World Music Radio』がまとまりのある一つのステートメントに聴こえるのは、そのおかげだと思う。いろんな音楽の形を勉強していけば、音楽にはいろんな種類のスタイルがあるとわかる。それぞれをリスペクトするだけじゃなく、自分がすでに体験してきて、自分の体の一部となっている音楽と、どこかで繋がっているかも知れないと考えるってことさ。音楽にTransformation (変換、転換)を起こす鍵はそこだと思う。新しく自分が知った知識と、すでに自分の中にあるDNAというか、知識や経験に基づいたものをいかにコネクトさせ、自分の視点から自分のものにするか。ソースにリスペクトを払うことなく、ただ派生的に何かを生むっていうんじゃない。そうではなく、今までバラバラに見えていた点と点を繋げるということ。そのためには深く飛び込んで、掘り下げる必要がある。しかも一つだけじゃなく、いろんなものに。そうすると表面を見ているだけでは見えなかった繋がりが見えるようになるんだ。

―『World Music Radio』では多様な文脈のゲストが参加していますし、世界中の様々な地域、様々な時代の音楽要素が入っています。そして、超がつくほどポップです。それでも僕は、以前のアルバムにもあった「ジョン・バティステらしさ」を本作にも強く感じるのですが、ここまで特別な試みをしていても聴こえてくる「あなたの音楽的な核の部分」は何だと思いますか?

JB:音楽を通じて、一種のエクスペリエンス(体験)を作れるっていう考えかな。だから、毎回アルバムを作るごとに考えているのは……いや、直接的に考えなかったとしても……ライブなエクスペリエンスという概念の境界線を広げたいと思っている。その結果、新しくなるというよりは古いものに戻っていくんだ。たとえばコンサートでも、ステージの僕らとチケットを買って観にきている客席というよりは、まるで古代の村のコミュニティで人が集っているような場面もある。

もう一つ、僕の音楽の核には常に、一緒に育ってきたジャズやニューオーリンズの音楽がDNAとしてあるわけだけど、DNAを構成する3つめの要素はゲーム音楽だ。ジャズと言っても、僕にとってはトラディショナルなジャズじゃない。僕が初めて聴いて、演奏したジャズはアバンギャルドなニューオーリンズのコンテンポラリー・ジャズだった。フリー・ジャズだよ。

―まさかのフリージャズ!?

JB:そう。それらとクラシック音楽……つまり、音楽を聴き始めた初期のものが、僕の音楽の核なんだと思う。しかも、それらはどれもジャンルレスだった。一つのカテゴリーにこだわって何かを作るということは昔から一度もなくて、想像力に導かれるままにそうしてきたんだ。



―最後に、ついに10月に日本公演がありますが、どんなライブになりそうですか?

JB:僕も楽しみなんだ。ものすごい体験になるよ。大きなエネルギーが溢れるような……本当はもっと言いたいけど、みんなを驚かせたいんだよね。

―では、東京でお会いできるのを楽しみにしています。

JB:うん、そのときに会おう!!

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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